職場でゲイとして生きること<9>

 その上司はプロジェクトマネージャーで、よくチームのメンバーに冗談を言っては笑わせて和やかなムードを作ることに長けていた。彼の言葉を聞いて同僚達は冗談かと思って笑っていた。周囲の同僚の様子を探ったけど、いつものように冗談と取っているのか別に反応はなかった。ボクは迷っていた。新宿二丁目には興味があったけど、そもそも「神原っておかまぽいところがあるし」という発言をどこまで本気で取っていいのか悩んでいた。彼は冗談で言ったのかもしれないけど真実だった。

「いいですね。新宿二丁目って前から興味があったんですよ。ゲイバーの人とか面白そうですよね」

「そうか。じゃ今度行こうよ。俺のいきつけの店があるから紹介してやるよ」

「ありがとうございます」

 ボクの言葉を聞いて。彼は嬉しそうだった。

「あいつら気持ち悪いけど面白いぞ。○○って子がいるんだけど、どうみても見た目が野郎だし」

「はははは……それはキツイですね。でも楽しそうですね」

 ボクは本心を見透かされないように適当に愛想笑いをした。 

「俺も新宿二丁目に行ってみたい。今度連れてってくださいよ」

 二日酔いで死んでいた同僚達も上司の話に乗って来た。

「よし! じゃみんなで行こうか」

 会社の同僚と一緒に行くなんてまっぴらごめんだったし、実際に誘われても行く気はなかった。でも反応しない訳にはいかないし適当に合わせることにした。慌てて拒絶すると怪しまれると思ったからだ。そもそもボクは同僚と新宿二丁目に行くことを恐れていた。同じゲイ仲間なら会話をしていると、ボクがゲイであることを隠していても感づかれる可能性があるからだ。

 ボクはキーボードに向かってプログラムを書きながら、さっきの上司の言葉を考えていた。いったいボクのどんなところがおかまぽいと思ったんだろう。有料ハッテン場で出会ったゲイ仲間からは「仕草や言葉遣いがゲイぽくなくて見ただけでは判断がつかない」と言われていたので、ノンケの人と普通に話しても大丈夫だと安心していた。過去には大学時代では仲の良い女性から、なんとなく感づいた人がいただけで、男性には全く感づかれたことがなかった。

<つづく>