おのぼり二人紀行<28>

今回の旅行中、他のゲイブロガーに声をかけて会ってみることも考えていた。すぐに2名ほど頭に浮かんだけど、でも彼と二人で遊ぶ方を優先することにした。よくよく考えてみると、僕はゲイブログを書き始めてから3年も経ったのに、たった一人のゲイブロガーとしか会っていない。福岡は人口の割にゲイブログを書いている人が少ないのも関係しているのだけれど、それだけが理由ではない。

 

たった一人しか会っていないけれど、僕にとってはその一人と会えれば十分だったように思う。それだけ僕にとっては価値がある出会いだったと断言できる。

 

このサイトの読者に声かけすることもできたけれど、それもするつもりはなかった。このサイトで文章を書き始めてから50万件近いアクセスがある。こうやって新宿2丁目を歩いていると、どこかで僕の書いた文章を読んでいる人とすれ違っているはずなんだけど、何となく恥ずかしくなってくる。

 

ただ一方で、僕のサイトを定期的に読んでいる人たちは、新宿2丁目で遊ぶことはあまりないだろうとも思っている。どちらかというと僕のサイトの読者は、ゲイの世界に入ろうか迷っている人。ゲイの世界に入って入口付近にいる人。ゲイの世界に入ってみたものの馴染めない人。そんな人たちが多いように感じている。

 

そういえば、このサイトの読者で福岡県や佐賀県に住んでいる読者とメールのやり取りしたことがあるけど、「僕が福岡のどこに住んでいるのか」については予想がついていない人が多かった。そんな中、彼の推測はちゃんと当たっていた。彼は「恐らくあの街だろう」と文章を読みながら推測していたらしい。ただ、それでも彼の親戚が住んでいる町内のすぐ近くに僕が住んでいるとは思ってもみなかったようだ。

 

僕たちは店を探して新宿2丁目をぶらぶら歩いて屋根がついている古びた裏路地に入った。

 

去年、新宿2丁目に来た時も、この裏路地を散策したのを覚えていた。

 

それから、ようやく目的の店を見つけてからドアの前に立った。

 

僕は「それじゃあ。入りましょうか?」と言って、彼の顔を見ると緊張しているのが分かったので、先にドアを開けて進んだ。僕も一人なら店に入るのに勇気が必要だけど、でも彼と一緒だからあまり緊張していなかった。それに店の雰囲気が合わないと感じたら、すぐに出ていけばいいと思っていた。

 

この店を見つけてきたのは彼の方だった。

 

関東旅行が決まってから「この機会に一生に一度くらいゲイバーに一緒に行ってみたい」と思っていた。ただ、普通のゲイバーというより、もう一つ別の要素が加わっているほうがいいと思っていた。そんな中、彼が見つけて来た店を見て、「これなら僕たちでも合いそうだ」と思った。ここで僕たちが行った店の名前を書くことはできるけど内緒にしておく。

 

店に入ると右手にカウンターが見えた。店の主人1名と客が3名ほどいた。どこに座ろうか迷っていると1名の客が「次の用事があるので帰ります」と言って席を立った。

 

僕は店内の間取りの方に興味が向いていたのだけれど、その客は帰りがけに、隣に立っている彼に向って「カッコイイ」「いいカラダしているね」と言った。

 

僕は背中の方で聞こえる、その言葉を軽く聞き流していた。

 

僕も過去にハッテン場で似たようなことを言われたことはある。でも真剣に受け取ってはおらず「はぁ……どうも……」と適当に受け流していた。恐らくお世辞だろうし、仮にお世辞じゃなくて誘いだったとしても、そういったことを軽々しく言ってくる人に興味がないからだ。

 

その数秒後、少し間があってから店の主人と客たちがいきなり笑い出した。

 

僕は「何かあったの?」と思って二人の方を見た。すると彼の顔が戸惑っていた。一方、声をかけた客の方も、彼のあまりに素の反応に驚いているようだった。彼の方はゲイの世界に踏み込んでから日が浅いせいか、そういった言葉を受け流すどころか直撃してしまったみたいだ。

 

<つづく>