第31章 仕事に生きる同性愛者

仕事に生きる同性愛者<12>

転職して数年が経った。 「神原さんって朝来てから毎日同じ順番で行動してるね」 声をかけてきた方を見ると、50代中盤の女性社員(失礼だがおばちゃんと呼ぶ)が、二人して笑いながらボクを見ていた。ボクの転職後の職場は年配の女性も多くて、簡単なパソコン…

仕事に生きる同性愛者<11>

「ヤバい……涙が流れはじめた」と思った。そして「すぐに止めないと」と思った。でも涙は止まるどころか、もっと急いよく流れ始めた。鳴き止むどころか呼吸が苦しくなって、すすり泣きしていた。ボクは一人の時に泣くことは多いんだけど、過去に人前で泣いた…

仕事に生きる同性愛者<10>

この断トツNO1の黒歴史を書こうかどうか迷ったけど勇気を出して書くことにする。 面談中は社内の会議室で上司と二人きりだ。ちなみに面談相手の上司は、会社内でボクのことを最初にホモ扱いしていじった人だった。ボクは会議室に移動して上司と仲良く雑談し…

仕事に生きる同性愛者<9>

ボクは暗記するくらいに何度も文章を読んでようやく本を閉じた。そして改札口から次々と出て来る人達をただ眺めていた。 ボクはずっと待ち続けた。誰かを待った。何かが起こるのを待った。 いつか自分の人生を切り開く何かが起こると信じて待っていた。ただ…

仕事に生きる同性愛者<8>

ボクは喫茶店で本を読みながら読書に疲れると、考え事をしながら窓から外を眺めていた。 ハッテン場。出会い系の掲示板。チャット。MIXI。他にも色々試してみたけど、結局はどれもダメだったな…… 社会人になって東京に来てからは、ゲイ向けの出会い系の掲示…

仕事に生きる同性愛者<7>

社会人になって1年目は仕事に追われる日々だった。もともと文系からシステム業界に入ってしまったせいあって、仕事を覚えるのに必死だった。他の同期は工業系の学部などを卒業していることもあって、ある程度はシステムについて知っていたからもある。 「こ…

仕事に生きる同性愛者<6>

ボクは部屋の中が静まり返ってることに気がついた。 その日は休みだったから、いつもなら彼のいる隣室からテレビの音声が微かに聞こえてくるはずだった。ボクは布団から起き上がって部屋を出て隣の部屋のドアを開けた。その部屋には、つい昨日までは家具が沢…

仕事に生きる同性愛者<5>

会社に勤め始めて1年2ヶ月ほど社員寮に住んでいた。別に一人暮らしをしてもよかったんだけど、京都の大学を卒業して東京に出てくると同時にアパートを探したりするのがめんどくさかったからだ。 ボクは2LDKの社員寮を兼ねた賃貸アパートに4歳ほど年上の男…

仕事に生きる同性愛者<4>

これは前職の時代の話だ。AM8時、ボクは職場に着いてパソコンの電源を入れた。パソコンが起動するまでの間に、スーツの胸ポケットに社員証をつけて、セキュリティタグを首にかけた。そしてカバンの中から携帯やタンブラーを出して机の定位置に置いた。そして…

仕事に生きる同性愛者<3>

仕事に生きる人間になろう。 ボクは大学を卒業して社会人になった時に心の中でそう決心していた。 実はボクは仕事がかなり好きだ。はっきり言って職場に住んでもいいかもしれないと思っていた時期もあった。こんなことを書くと「社畜」と思われるかもしれな…

仕事に生きる同性愛者<2>

そもそもボクは同僚が「Kさんが退職しているのではないか?」と話題を出した時から、Kさんが辞めていないことも知っていた。それはボクが同じゲイという立場上もあって誰よりもKさんに関心があったからだ。そして転職後、ボクはある組織のシステム担当をして…

仕事に生きる同性愛者<1>

「そういえば○○部署のKさんって最近見ないですけど退職したんですかね?」 パソコンに向かってメールの返信を打っていると職場の同僚が話しかけてきた。新しい年度が始まると、新入社員も入ってくるけど、同時に入れ替わるように昔からいた社員も辞めていく…