第7章 それでもボクは盗ってない

それでもボクは盗ってない<14>

「それじゃあ……」 いつもの分かれ道にたどり着いた。ここから先は別々の道だった。 ボクは自転車にまたがって、じっと彼の目を見て、ずっと前から心の中で決めていた「ある言葉」を言った。 「ありがとう」 松田君の顔を見ると「えっ?なんでありがとうなの…

それでもボクは盗ってない<13>

ボクは私立大学を志望していたから、2月になってから大学受験が本格的に始まった。そして2月末に志望していた大学に合格が決まっても、そのまま卒業式まで全く学校に顔を出していなかった。だから松田君とは1ヶ月以上も顔を合わせていなかった。まだ携帯電…

それでもボクは盗ってない<12>

それは授業の合間の休み時間に起こった。 「もう次から要らなくなったから借りてた体操服を返すね!」 他のクラスの背の高い同級生がずかずかと教室に入ってくるなり、そう言って体操服入った袋を同級生に放り投げた。彼は素行の悪いので有名な同級生だった…

それでもボクは盗ってない<11>

最悪だった。 理由は分からないけど、せっかく体操服が見つかって騒ぎは収まるかと思っていたのに再燃してしてしまった。再び燃え広がった火は前回よりも激しく燃えていた。 「また神原が盗ったんじゃない?」「やっぱりあいつ怪しいよね?」「やっぱりホモ…

それでもボクは盗ってない<10>

ボクは慌てて彼から視線を逸らした。 向こうで騒いでいたメンバーが徐々に静かになっていった。そして小声でヒソヒソ話し始めた。 「もしかして盗ったのってあいつじゃない?」「あっ……そうか神原なら可能性がある」 そんな話し声が微かに聞こえてきた。ボク…

それでもボクは盗ってない<9>

修学旅行の話から少し前……高校2年後半に話は戻る。 問題だった体育の時間。 ボクは体育の授業のある日を全て休むことはできないから授業を見学することにした。ただ問題は体育の先生が見学を許可してくれるかどうかだった。 体育の先生は学校内で一番の暴力…

それでもボクは盗ってない<8>

ついでにさらに驚くことを白状する。 同性の松田君に告白するまでも驚きなんだけど、こんな告白めいた発言を繰り返し言っていたら、当然に周囲の同級生はおかしな事態になっていることに気がつくはずだ。ボクもなるべくみんながいる前では告白めいた発言をし…

それでもボクは盗ってない<7>

高校2年生の終わり頃か、3年生の初め頃だったか正確な時期は覚えていない。ボクは初めて好きな男性に告白していた。そもそも告白というものをしたことがなかったので、これが生まれて初めての告白だった。 「ボクさ……松田君のこと好きだから!」 授業の合…

それでもボクは盗ってない<6>

少し先の話になるんだけど、この水泳の授業と似たような困った行事があった。それは修学旅行だった。「なんで修学旅行が関係してくるの?」と疑問に思うかもしれないけど、問題は修学旅行のお風呂だった。こんなことを書いてると「ホモだから女の立場で男と…

それでもボクは盗ってない<5>

翌日、学校に行って体操服に着替えているといつものように冷やかされた。足の毛を切っているのに「ホモなのに毛が生えている」と言われた。とても悲しかったけどボクは聞こえないふりをして急いで体操服に着替えた。 もうどうせ足の毛を切ってても言われるの…

それでもボクは盗ってない<4>

そのうち時間が経つにつれてボクのことをホモ扱いして楽しんでいる同級生は固定化されてきた。冷されても無反応を決め込んでいるためか、多くの同級生はホモ扱いしていじるのも馬鹿馬鹿しくなって飽きてきたようだ。最後まで残ったのは4人くらいだった。それ…

それでもボクは盗ってない<3>

きっと後者の「ただの気持ち悪いホモ」だろうと思った。そのうち露骨に「うわ〜」と冷やかすような小声も出るようになった。逆立ちしているボクの足を支えている同級生が周囲の同級生に目を合わせて会話しているのが分かった。体育の教師は生徒の間で飛び交…

それでもボクは盗ってない<2>

ボクは体育館に向かいながらさっき同級生から言われたことを思い出していた。 ホモだから体操服や半ズボン姿が好きなの?って…… その質問に正直に答えればイエスとノーが入り混じっていた。好きでもない男の子のは見たくないけど好きな男の子であれば見たい…

それでもボクは盗ってない<1>

「神原ってホモだから男の体操服とか半ズボン姿が好きなんだよね?」 高校1年の体育の授業前だった。ある生徒から大きな声でそう言われたボクはいきなりの質問の答えを窮してしまった。その生徒は大して親しい訳でもないのに、いきなりボクに向かってそう質…