「そろそろ帰るね」
ボクは言った。高校生時代のカミングアウトを否定すること、松田君がどんな感じの大人になっていたかを確認すること、久しぶりに同級生と会う2つの目的は果たしたボクは家に帰ることに決めた。
「もう帰るの?途中まで送るよ」
他の同級生を話していた哲生が急に振り向いて言った。昔からボクと哲生とは特に親しくもなかった。どちらかというと性格的に合わなかった。途中まで送ると言われた時は驚いたけど、強く拒否することもできなかったし、何か言いたげな雰囲気も感じたので、そのまま二人で店を出ることにした。
店を出る時に松田君と目が合った。同級生の集まりに今後は参加するつもりもなかったので、もう松田君と会うこともないかもしれない。いつもマイペースでボクが告白めいたことを言っても、軽く聞き流してくれた。拒絶をしなかった松田君と高校時代に会えただけで、どれだけボクは救われたかわからなかった。
「じゃまたね。機会があった会おうね」
ボクは言った。
「うんまたね」
松田君は手振って微笑んでくれた。
<つづく>