同性愛の目覚め<1>

 ボクが同性愛に目覚めたのは中学生時代からだった。

 中学生時代のボクは人見知りが激しく、全くクラスでも目立たない存在だった。成績も悪かったし、運動も苦手だった。学校も休みがちで、「あいつは学校を辞めたんじゃないか?」と噂されたこともあったくらいだった。学校に行くことも苦痛でしかなく、憂鬱な気分で久しぶりに登校したある日のことだった。朝の登校時に駐輪場に自転車を停めている時に、見知らぬ男子生徒からかけられた一言から始まった。

「神原さんおはよう!」

 知らない生徒から、いきなり声をかけられたボクは頭の中が真っ白になってしまい、挨拶に対する反応もできないで困っているボクに対して、自転車のカゴからカバンを担いで颯爽と下駄箱で靴を履き階段を上がってしまった。駐輪場は学年別に停める場所決まっている。ボクと同じ駐輪場に停めているから、同じ学年の生徒なんだろうけど、同じクラスではないはず。あの人は誰だろう?話したこともないのに何故ボクの名前を知っているのだろう?と不思議に思っていた。ボクは彼のことについて全く知らなかった。それから数日間、朝の通学時間が同じなのか彼と顔を会わす日が続いた。

「神原さんおはよう!」

 顔を合わす度に、気楽に挨拶をしてきて歩いてしまう。

「おはようございます・・・」

 ボクは小さな声で挨拶を返して頭をさげるのが精一杯だった。彼は何者か?興味を持ったボクは他のクラスをそれとなく探り、彼のクラスを突き止めた。クラスメイト経由で彼の情報を集めてことを聞いてみると、N君という生徒であることがわかった。同級生内のN君の評価は、「頭はいいけど無邪気で変わった人」という扱いだった。でも、人見知りの激しかったボクには、N君が羨ましかった。全く接点のないボクに対して、名前を覚えている上に、忌憚なく声をかけることができる、そんなN君に憧れてしまった。ボクの同性愛は、同性に対する憧れのような形から始り、徐々にエスカレートして恋愛感情まで芽生えてしまったのだ。もし通学時にN君から挨拶されなければ、ボクは同性愛に目覚めることはなかったのだろうか?

<つづく>