同性愛の目覚め<3>

科学的な根拠はないはずだけど、以前、何かの本で「同性愛者の人間が生まれた家系の先祖にも同性愛者がいて、遺伝的に同性愛のスイッチが入る可能性を持っている」といった内容の文を読んだことがある。もしそうだった場合、僕の先祖にも同性愛者がいたことになるが、僕の知っている限りの先祖は全員結婚している。もちろん同性愛者であることを隠して生きた先祖もいるかもしれない。

 

ただ、僕自身の初恋は小学生時代の同じくらいの女の子だった。小学生時代に男の子を見ても特別な感情を抱くことは一度もなかった。

 

僕が同性愛者になってしまった原因を思い返すと、2つ思い当たることある。

 

生まれて小学生になるまで、近所に住んでいる同年代の子供が女の子しかいなかったことだ。遊ぶときも女の子らしい遊びが多く、ママゴトばかりしていた。男の子と野球やサッカーなどのスポーツをして遊んだ記憶が全くない。幼少時代に、女の子に対して友達として接し過ぎたため、「自分が女の子ではないか?」と潜在的に認識してしまったのではないかと思う。今でも女性に友達感覚で接してしまうことが多いけれど、幼少期の体験があるからかもしれない。

 

それと同性愛者になってしまった原因に関して、もう1つ思い当たることがある。二十歳を過ぎた頃から多くの同性愛者と出会っていく中で、彼らの中で「父親」という存在が大きいように感じた。僕が出会って来た多く同性愛者が、幼少期から父親が不在だったり、不仲だったり、虐待を受けていたりと、父親という存在が欠落している人が多いように感じた。実は、僕自身も父親は仕事で日本中を行ったり来たりしていて、ほとんど家にいないような状態だった。たまに休暇で家に帰ってきても、急な仕事で出かけることがしばしばあった。父親が家族の中で、どんな役割をするのかも分からなかった。ただ幸いにして、僕の母親は家庭内のやりくりが上手で、子育てに関しては夫を全く当てにしていない人だったので不自由さは感じなかった。科学的な根拠はないけど、もしかしたら無意識に父親という存在を求めて男性を好きになっているのかもしれない。

 

自分が同性愛者である認識が日増しに強まっていく中、N君のスキンシップはどんどん激しくなっていき、とんでもない発言を抱きつきながらようになってきた。

 

「神原さん。結婚しよう!」

 

彼の吐息が僕の耳にかかってくる。

 

おかしいのは僕よりもN君の方だ……。抱きつきながら男同士でする発言ではない。そんなことを言われると、「N君も同性愛者じゃないの?」と問い詰めたくなるが、いやいやいや……N君は僕だけではなく、誰にでも同じように接しているのだ。頑張って暴走しそうな妄想を抑えていた。

 

「はぁ?何言ってるの?」

 

本当は死ぬほど嬉しかったのだけれど、顔に出さないように釣れない返事をしていた。次の授業中も、ずっと嬉しさをかみ殺して顔に出さないようにしていた。でも帰りの道には我慢できなくなって自転車を漕ぎながら思い出してニヤニヤしてしまい、すれ違った人たちからは気味悪げな視線を向けられた。

 

これから先もN君のことは書いていくけど、彼は高校生になってようやく僕が同性愛者だったことを知ることになる。そして同時に僕がN君のことを好きだったことを知ることになる。

 

同級生から「お前がN君のことを好きなのを本人に話したよ」と言われた時、すごく怖かったけど、それから先も道ですれ違った時、彼は普通に僕に話かけてくれた。僕が知らない場所で周囲の同級生からは「ホモに好かれた人」と揶揄われたみたいだけど、マイペースな性格だからなのか無視していたらしい。大学受験前に予備校で開催されていた夏期講習を受けに行った時も彼はいたのだけれど、僕の隣の席に座って何事もないかのように話しかけてくれた。

 

彼のことを好きになってよかった。

 

そう心から思っている。

 

僕自身が同性愛者であることに対して、すんなり受け入れることができたのも彼のような人が近くにいてくれたからだ。

 

<終わり>