はじめてのカミングアウト<1>

 中学時代からN君に恋をして同性愛に目覚めたけど、普通の人なら自分がゲイであるとカミングアウトはしないだろう……でもボクは普通の人ではなかったらしい。中学生の年頃になると、クラスの誰々が好きかとか、テレビに出ている芸能人の誰々が好きとか必ず交わされる男友達同士の会話がある。

「神原ってクラスに好きな人いるの?」

「いや……特にいないよ。クラスに女子は少ないからね」

 ボクの中学校は1クラスあたりの男子の割合が圧倒的に多く、校内で恋愛しているカップルはほとんどいなかったから、同級生の誰々が好きといった恋愛話も少なかった。内心では「N君のことが好き」と思いつつは本心は隠していた。「N君のことが好き」ということを隠してきたはずなのに、そんな生活が一変してしまうことが起こってしまう事態が発生した。

 下校時間になり友達の藤田君と自転車を押しながら雑談していると、N君が自転車に乗って通り過ぎていった。N君は相変わらず無邪気な様子で話しかけてくる。

「神原さんバイバイ」

「さようなら……」

 内心はドキドキしているのに、顔に出さないように細心の注意を払って答えた。するとボクの様子を観察していた藤田君がニヤニヤしながら聞いてきた。

「もしかして神原ってN君のこと好きなの?」

「えっ……」

「前から怪しいと思ってんだけど違うの?」

 急に藤田君から質問され戸惑ったが、本心を打ち明けてしまった。

「うん……バレた?」

 普通なら隠してしまうのかもしれないけど、あっさり認めてしまった。人生で初めてカミングアウトしてしまった瞬間だった。

「やっぱり神原ってN君のこと好きだったんだ! 前からN君と話してる時は不自然な気がしたんだよ」

「隠しているつもりだったんだけど……」

「嬉しそうにしてて、全く隠せてないよ!」 

 無情に藤田君は言い放った。

「そうか神原って……N君のこと好きなのか?俺には何がいいのかわからないけどね」

「いつから感づいてた?」

「かなり前からおかしいとは思ってたよ。N君と話してる時、わかりやすいくらい態度が変わるからね」

「そうなんだ」 

 ボクの秘密を知ってしまったことが嬉しかったようでニヤニヤ笑っていた。そうか……ボクの演技は周りにバレバレなのか、隠しているつもりだったのに全く隠せてなかった。N君は感づいてないよな?と心配になった。はじめてカミングアウトした後、特に変わりなく藤田君と雑談をして別れた。一人になり始めてカミングアウトしてしまったことの重大さに気づいたけど、不思議と不安はなかった。藤田君は他の同級生にバラさないという自信があったからだ。藤田君とは入学してからすぐに仲良くなり、いつも二人で会話していた。次の日に学校で藤田君と会っても、いつも通りに接してくれ、同級生にもバラさないでいてくれた。初めてカミングアウトをして自然に受け入れてもらえた。この経験がボクの人生に与えた影響は大きかった。

<つづく>