ボクは授業中、それとなくヒロト君のことを観察していた。恐らくボク以外の生徒もヒロト君のことが気になっていたはずだ。ヒロト君はいつも通り真面目に黒板の内容をノートに写していた。同性愛者か問い詰められ下を向いて黙っていたヒロト君の姿を思い出だすと胸が痛んだ。A君が質問してきた時、ボクは間の抜けた返答しかできなかった。もう少しマシなフォローが出来たのではないか?子供の時からトロくて当意即妙に切り返しができない自分の性格が嫌になった。
長く感じた授業がようやく終わりヒロト君はヨウスケ君といつも通り雑談をしていた。事件があった時、ヨウスケ君は教室にいなかったから何が起こったのか知らなかった。この事件以降、ヒロト君に直接追求する生徒はいなかった。誰も同意してくれなかったA君もこれ以上の追求は諦めたようだ。ヒロト君はクラス内で一番成績が良くて、いじめの対象にはできなかったんだと思う。
その後、何人かの同級生がボクに同じ質問をしてきた。
「神原から見てヒロトってホモだと思う?」
クラスの皆んなも本音では、ヒロト君のことが気になっていたようだ。
「いや〜ホモの専門家のボクから見るとヒロト君は違うと思うよ〜」
「ヒロトがホモなら、ホモ同士で分かるよね」
「まあね〜分かると思うよ」
中学時代からホモ扱いされてきたボクにはこの程度のことで傷つきはしない。でもヒロト君はカミングアウトしなかったのだし、認めたくないなら否定しようと決めた。同級生に聞かれるたびに、適当にあしらっていた。あの事件以降、ヒロト君がボクのことを見てくる回数は少なくなっていた。
ヒロト君とは二人きりで話す機会がないし、それきりだと思っていた。しかし高校3年生の夏、ヒロト君と二人きりになる事態に遭遇することになる。予備校が開催している大学受験対策の夏期講座でヒロト君と出会ってしまったのだ。
<つづく>