はじめて会った同性愛仲間<6>

その予備校はボクが住んでいた地元から電車で1時間半くらいかかった。ボクの学校の生徒は近場の塾に通っていたみたいで知り合いはいなかった。地元から離れた大学を受験する決意をしていたボクにとって、知り合いもいなくて集中して勉強ができるいい環境だった。現代文の授業が終わって昼休みになった。他の生徒は同じ学校の知り合いがいるようで、仲良く集まって昼食をしていた。ボクは知り合いもいないし、一人で昼食しようと弁当箱を開けようとした時、後ろから声をかけられた。

「もしかして神原さん?」

急に名前を呼ばれ、振り返ると学生服姿のヒロト君がいた。

「神原さんかなって〜思ってたけど、私服姿だから分からなかった」

大半の高校生は学生服で来ていたのだが、ボクは予備校生に間違われても気にしなかったので気楽な私服姿で来ていた。

知り合いがいたことに驚いたボクは素直に思ったことを言った。

「知り合いはいないかと思ってたよ」

ヒロト君は頷いた。

「そうだね〜予備校生と他の高校から来てる人ばかりで俺らの学校から来ている人いないよね」

「一緒に食べていい?」

「どうぞ・・・」

断ることもできず、隣の席に座るように促した。これは気まずい人と遭遇したな・・・ボクの思いとは反対に、ヒロト君は嬉しそうだった。初めてヒロト君と二人で話すことになった。同じクラスの生徒と会えたのに嬉しさは起こらなかった。

「神原さんってどこの大学が志望なの?」

「関西の◯◯大学とか◯◯大学レベルかな。難しいと思うけど」

少し驚いて様子でヒロト君は言った。

「俺も関西の大学に絞ってて、◯◯大学レベルを目指してるだよね」

「まぁヒロト君なら受かるんじゃない?」

ボクにとっては少しレベルが高い大学だったけど、成績優秀なヒロト君なら合格するだろうなと思った。大学時代からは同性愛者であることを隠して、新しい人生を始める決意をしていたボクは、ヒロト君と同じ大学には行きたくないと思っていた。

ボクとヒロト君は夏期講習で選択した講義が被っておらず、一緒に授業を受けることはなかった。しかしヒロト君は休み時間になるとボクを探しては雑談しに来るようになった。お互い勉強のことなど当たり障りのない話題を取り上げて会話していた。ボクは相変わらずヨウスケ君にしか興味がなく、ヒロト君のことは恋愛対象外だった。ヒロト君が目を合わせてくることも少し迷惑に感じていた。本当はヒロト君にヨウスケ君のことを聞いてみたかったけど、ヒロト君も同性愛の話題には一度も触れてこないし、ボクも触れないようにしていた。

このまま同性愛については触れないで夏期講習が終わると思われた頃だった。ボクは勉強が捗って終電の時間まで予備校の自習室にいた。終電の時間まで残って勉強する高校生は少なく、大半が予備校生だった。自習室の使用時間が終わり、予備校生に混じって駅に向かって歩いていた時、同じく終電まで残って自習していたヒロト君から声をかけられた。

「神原さんも残ってたんだ?」

「そっちもこんな時間まで残って勉強してたの?」

二人で雑談をしながら改札を抜けて駅のプラットホームに降りた。まだ終電は到着しておらず会社帰りのサラリーマンと予備校帰りの学生が10人くらい雑談していた。ヒロト君が降りる駅はボクの降りる駅の2つ手前だ。別れるまで1時間半以上はある。夜遅い時間帯でもあり、なんとなく予感がしていたが的中することになる。

<つづく>