ノンケに生まれ変わりたい<1>

銭湯での事件以降、同性愛者として生きることに希望が見出せなくなっていた。そして相変わらず大学時代から同性愛者であることを隠して生きているボクには好きな男性も女性もできていなかった。

同性愛が病気なのかはわからないけど、病院に行くなら精神科かな?でも病院の受付でのやりとりを想像しただけで寒気がした。

「今日はどういった症状ですか?」

「いや・・・男なんですけど男が好きなのをどうにかしたいので・・・」

ボクにはこのやり取りはハードルが高すぎる・・・

そもそも同性愛を治すには病院で貰った薬を飲んだり、カウンセラーを受けてなんとかなるものでもないはずだと判断した。性転換するなら病院という選択肢もあるだろうけど、そもそもボクは女性に生まれ変わりたという願望は全くなかった。考えた末に、まずは同性愛について書いた本を読んでみようという結論に至った。

同性愛をテーマにした本を買うこと。これが思ったよりハードルが高く2つの問題があった。まず1つ目の問題は「保管場所」について、実家にいるときは親の存在が問題だった。本棚に置くわけにはいかないし、親に見つからないように隠す場所を探すのも難しい。今なら一人暮らしをしているので親の存在は気にしなくていい。保管場所については解決していた。もう1つの問題は「買う場所」について、今ならネットショップで購入すれば、梱包して家まで宅配してくれるが、まだネットで本を買うことができなかった時代だ。知り合いのいそうなキャンパス内の書店や大学近辺の書店で買うなんてことは絶対にできない。そこでなるべく多くの本を取り揃えていて、店員が忙しく人の買うものなんて興味がなさそうな本屋で買うことにした。

ボクは本を買うため大学近くの繁華街にある大手書店に向かった。たかが本を買うぐらいなのにとても緊張していた。

「なるべく買いやすそうな本はないかな・・・」

ボクは人目を気にしながら店内を徘徊していた。書籍名に「同性愛」をタイトルに付けた本を見つけては、人がいないことを確認して急いで本を取り内容を確認していた。内容を確認するために立ち読みをする時も、近くに置いている関係のない真面目そうなタイトルの本を1冊取って、同性愛のタイトルが書いた表紙を隠すようにして読んでいた。

「レジの店員に見せた時、この人は同性愛者なのかな?と思われるのではなく、同性愛者を研究している人なのかな?と思われる本を探さなくては・・・」

ボクは何度も同じルートを徘徊して、新書コーナーでようやく買いたい本を2冊ほど見つけた。しかしこの2冊だけを野ざらしにレジに出すことは恥ずかしい。ボクは漫画本を2冊ほど買って、漫画本の間に挟むように入れた。

「よしこれなら自然でバレないぞ!」

漫画本→同性愛の新書→同性愛の新書→漫画本という順番に不自然がありありと出ているが、当時のボクは自分に自然だぞと言い聞かせていた。

ボクは同性愛の書籍を持ってドキドキしながらレジに向かった。

<つづく>