ボクは驚いて立ち尽くしたまま、森の中のタバコの明かりを目で追っていた。すると向こうもボクの存在に気づいたようで、タバコ明かりが徐々に近づいてきた。枯葉を蹴散らす音や、道に落ちている枝を踏んで折れる音が森の中に響き渡っていた。
「怖いな……このままいくと殺されるかも」
本で読んだハッテン場=殺人事件のイメージが頭をよぎった。同性愛者の仲間に会える喜びよりも恐怖の方が優っていた。
「逃げよう! 深夜にこんな森の中にいる人なんてまともじゃない!」
自分も森の中で不審者のように徘徊していたことを棚上げにして、ボクは足早に森から出た。入り口まで出て森の中を振り返ると、タバコの明かりは見えなくなっていた。ボクは緊張していた。そして落ち着くために明るい場所に行きたかった。トイレ前のベンチは街灯があって明るいので元の場所に戻ることにした。トイレ前のベンチに向かっていると、さっきまで誰もいなかったベンチに座っている人がいた。
「あれ……五分くらい前までは誰もいなかったのに二人もいる」
ベンチに座った二人は近づいて来るボクの方を見ていた。ボクは二人から離れたベンチに腰をかけて携帯を出してメールを打っているふりをした。そして二人を密かに観察していた。
「一人は六十代くらいで、もう一人は五十代くらいかな」
二人ともボクの方をチラチラ見ていた。しばらくすると森の入口の方角からタバコを吸いながら歩いて来る人がいた。
「きっとこの人がさっき森の中にいた人だ」
ボクはその人の顔をちらっと見た。
「この人も五十代後半くらいかな……」
後日、知り合った同性愛者から教えてもらったのだが、この公園はハッテン場の中でも比較的に高齢の同性愛者が多く、来ている人たちも常連が多いらしい。たまにボクのような二十代や三十代の若者が迷い込んで、常連たちから狙われるケースが多いと聞いた。タバコを吸ってる人はボクの座っているベンチ近くまで来て、立ち止まりタバコを吸っていた。ボクは携帯でメールを打っているふりを続けていた。
「どうしよう……ここがハッテン場だと確認できたし帰ろうかな」
三人の視線がボクに集まっているのを感じていた。タバコを吸っている人はボクの隣のベンチに座った。
「なんかボクって絶対に浮いてるよな……」
それとなく隣のベンチに座ったタバコを吸っている人に目を向けた。そしてボクは固まってしまった。その人はボクの方を見ながらズボンのチェックを下ろし取り出した○○○を弄っていたのだ。
<つづく>