はじめての有料ハッテン場<1>

 雨が降る夜だった。ボクはコンビニで立ち読みをするふりをして、道路向かいのビルの様子を伺っていた。

 目的のビルに着ついてから、かれこれ一時間近く経っていた。ボクはビルの周りを何度も往復して、ビルの一階にあるエレベーターの前まで来たが、エレベーターのボタンを押す勇気が出せず、向かいのコンビニで気持ちを落ち着かせていた。そう……ボクが見ていたビルの四階には有料ハッテン場の「サポーター」があるのだ。

 サポーターは京都市内で唯一の有料ハッテン場だ(現在は閉店)。京都の繁華街である四条河原町から歩いて十分程度の場所にある。あまりに自然にあるため、このビルに有料ハッテン場があることをほとんどの人が知らないだろう。知っているのはゲイだけだ。有料ハッテン場は、ゲイ同士で雑談するために行く場所ではない。ゲイ同士でセックスするために行く場所だ。

 二十一時を過ぎていた。仕事帰りや飲み会帰りの沢山の人がビルの前を通り過ぎていた。「さっきからずっと見てるけど、誰もビルに入っていかないな……」と考えながら立ち読みを続けた。もちろん本の内容は頭の中に全く入っていなかった。ここまで来たからにはビルに入るつもりだが、中の様子も分からないため、誰かが入った後について一緒に入ろうと考えていた。

 立ち読みをしながら、ビルの中の様子を想像して恐怖が一杯だった。ビルの中で沢山の男同士がセックスをしていると考えただけで、踏み出してはいけない世界のような気がしていた。セックスはしないにしても、せめて有料ハッテン場がどんな場所なのか、それを見学だけでもして帰ろうと決めて、自分を納得させていた。

 立ち読みを続けるにも足が疲れたきた頃だった、雨に濡れた窓のガラス越しにビルに入っていく男性の姿が目に入った。「よし、あの人に付いて一緒に店に入ろう」と思ったボクは急いでコンビニから飛び出した。

<つづく>