「そちらは何の仕事をしてるんですか?」
「京都市内の銀行に勤めてる。職場ではゲイのことを隠してるから同僚に会わないかヒヤヒヤしながら店に来てるんだ」
「銀行か……見た感じのイメージにぴったりですね。ボクも大学の友人にはゲイなのを隠してるんですよ」
「俺も学生時代はずっと隠してた」
その時、メガネの男性が枕元に置いた携帯が鳴った。
「ちょっと待ってね。メールの返信するから」
メガネの男性は暗闇の中、携帯電話を開いてメールを打ち始めた。
「誰からですか? 友達ですか?」
「嫁からのメール」
ボクはびっくりして言った。
「えぇ! 結婚してるんですか? こんな所に来ていいんですか?」
「うん……嫁には残業って言ってるから、二十三時くらいまでなら大丈夫」
「奥さんはゲイなのを知ってるんですか?」
「バレてないよ。時々は嫁ともセックスもしてる。でも義務的にやってるだけで、やっぱり男の方が好きなんだ。嫁のことは好きだけど、もうこればっかりは仕方がないよ。君と裸で抱き合ったままメールを打ってるなんて嫁も思ってないだろうね」
「そうでしょうね……」
ボクは言い繕うためのうまい言葉がでなかった。
「前から職場に好きな男がいるんだ。その人を俺の結婚式に招待したんだけど、お祝いの言葉を言われた時、思わず『あなたと結婚したかった』って言いそうになって危なかったよ」
メガネの男性はそう笑いながら言った。メールを打ち終わって、携帯を枕元に置いた。そして、また激しく抱きついてきた。なんだか彼の生き方を思うと自分と重なるようで悲しくなってきた。ボクも彼に応えるように抱きしめて返した。
後々になって気づいたのだが、ボクはハッテン場でセックスする時に雑談をするのが好きだ。雑談を嫌がる人もいるのは知ってる。うまく説明はできないけど、話をしていると相手の人生の背景が見えてきて、相手のことがより好きになってしまう時がある。ただ単にセックスして終わりの関係は嫌だった。
<つづく>