手を振りながらメガネの男性は階段を登っていった。彼の姿が見えなくなってから、ふとある事実に思い至った。
「もしかして既婚者と寝たってことはボクのしたことって不倫の片棒を担いだことになるのかな?」
男性との肉体関係二回目にして既に不倫の領域に突入している自分に驚いていた。彼には奥さんがいるし、もしかしたら子供もいたのかもしれない。既婚者と寝たことに少し罪悪感を感じた。
「まぁ……でも仕方ないよ。この店に来て寝た相手が既婚者かどうか事前に判断なんてつかないし。彼も望んでしてきたことなんだし、行きがかり上でああなってしまったんだし」
そう開きなおることにした。店に入るまでウジウジと迷ったりするくせに、ある面においては開き直るのが早かった。
「もう少ししたら帰ろうかな」
ボクはもともと一日に何回もイクほど性欲が強くない。このまま帰ってもよかったけど、もう少し有料ハッテン場がどんなところなのか見学してから帰ろうと思っていた。ボクはまだ行っていなかった休憩室に向かった。
休憩室は階段の手前にある小部屋と、奥の広い部屋の二つあった。
手前の小部屋を覗くと、小型のテレビとソファが置いてあった。テレビにはゲイ向けのアダルトビデオが流れていた。テレビを置いている台にはDVDが散乱していた。恐らくサポーターの経営母体はアダルトビデオを作っている会社なので宣伝のために流していたのだろう。三十代ぐらいの男性が熱心に動画を見ていた。部屋を覗いているボクの姿を見て目を合わせきたけど、小部屋で二人きりになるのは気まづかったので、奥の部屋に行くことにした。奥の部屋には大型のテレビとソファが置いてあった。窓はあったけどはめ殺しにされ、カーテンで遮られて外の様子は見えなかった。河原町通りを走る車やバイクの音が聞こた。室内は薄暗い電球色で照らされて、部屋にはタバコの煙と匂いで一杯だった。
<つづく>