ノンケに生まれ変わりたい<5>

「あぁ……確かに○○君と○○君は怪しいですよね」

「わかってくれる? 他の男の人にこんな話してもヒかれるけどね」
 
 ボクらは閉店する深夜二時くらいまで週に一回から二回はこんな馬鹿話をして二人で過ごしていた。

 ここら辺でボクの大学生活に触れておく。
 
 大学に入学してからボクはすぐにアルバイトを始めた。理由は自由に遊ぶためのお金が欲しかったという邪な理由と、社会人になる前に何らかの職場体験をした方がいいのではないかという真面目な理由からだ。何のバイトをしようかと探している時だった、近所のレンタルシップ店にアルバイト募集のポスターが貼られているのが目についた。家から自転車で通える距離だったので、特に他にはこれといった理由もなくその店でバイトをすることに決めた。

 そのレンタルショップでは、CDやビデオを取り扱っていた(まだDVDのレンタルが本格的に開始していない過渡期の時代だった)。接客業の経験がなかったし人と接するのが苦手だったので、バイトが始まった当初は戸惑っていたものの、何回か経験するうちにすぐに慣れてしまった。同じ大学のバイトの先輩が優しく教えてくれたおかげでボクは仕事を覚えて、スムーズにバイト先の人間関係にも馴染むことができた。客との間にコミュニケーションなんてほとんどなく、覚えたセリフを機械のように繰り返し言い続ければよかった。主な仕事はレジ対応、会員登録対応、返却されたCDやビデオを棚に戻す作業だった。その中でも返却作業が好きだった。返却されたCDやビデオを山のように重ねて片手に持ち、該当のパッケージを見つけて元に戻す作業だった。

 ボクは流行には全くと言っていいほど、疎い人間だった。そもそも高校生ぐらいからNHKのニュース番組ぐらいしかテレビを見ておらず、そのニュース番組も最初の二十分間くらいの重要なニュースだけを見て、スポーツニュースが始まったらテレビの電源を切るという状態だった。あとは時々は目についたドキュメンタリー番組(これもほとんどNHK)を見るぐらいだった。時流に完全に乗り遅れていた。

 へぇ……世間ではこんな映画や音楽が流行ってるのか? そんな観察をしながら返却作業を楽しんでいた。

<つづく>