ボクは特にクラッシック映画のコーナーの返却作業が好きだった。バイトが終わってからも、クラッシック映画をバイト先でレンタルして家で見ていた。
「神原さんって変わってますよね? 白黒映画ばっかりレンタルしてません?」
ある日、バイト仲間からそう指摘されてしまった。
「生まれる時代を間違えていたのでないか?」
「カラー映画を見ると情報量が多すぎて疲れるんじゃない?」
とか冗談を言って、バイト仲間からは弄って遊ばれていた。既にバイト先では変人扱いされはじめていた。
初めて見たクラッシック映画は有名な『ローマの休日』だった。確か実家に帰省した時に衛星放送か何かでその映画を放送していた。小学時代以来、女性に対して何も反応がなかったのに、映画でオードリーヘップバーンを見た時は素直に美人だと認識できた。ちなみにボクが好きな女優はローレン・バコールだ。
飲み会で友達から、
「好きな女優は?」
と質問されて、
「ローレン・バコール」
と答えて、ドン引きされた経験がある(そもそも友達はローレン・バコールを知らなくて、携帯を使って画像検索で調べていたのだけれど)。特に『脱出』(一九四四年)という映画での彼女は素敵だと思った。その時の友達の反応からボクの中でローレン・バコールが好きだという回答は封印することになった。好きな映画監督はジャン・ルノワール(画家のルノワールの次男)だ。
ボクの個人的な考えだけど、時代が流れても生き残り続ける作品には、何かしらの強いエネルギーがあると思う。何十本も仕入れられた新作のビデオは沢山の人にレンタルされるけど、数ヶ月もすると、準新作になって二本や三本に減らされ、さらに数ヶ月もすると、旧作になって一本に減らされ誰も見向きもされなくなる。そんな映画は山ほどあった。本当に価値のある面白い映画は、旧作の一本になっても定期的にレンタルされていた。クラッシック映画になると一九二〇年代くらいから、五十年以上も生き残っていることになる。長い年月が過ぎても残り続ける何かしらのエネルギーがあるんだと思う。そう考えるだけで尊敬に値した。