ノンケに生まれ変わりたい<7>

  大学時代だけで、一九二〇年代から一九七〇年代までの映画を四百本ぐらいは鑑賞した。お客に質問されたら機械で調べなくても、その作品がどこの棚にあるのか全て暗記していた。いつの間にかバイト先ではクラッシック映画担当になっていた。

 ただ好きだった返却作業の中にはAVも含まれていた。これがゲイのボクには苦痛だった。

 女性に興味がない僕にとって、AV女優の顔も名前も区別もできなくて全てが同じ顔に見えたのだ。他の男性のアルバイト(もちろん女性のアルバイトは免除されていた)は喜んでAVの返却作業をやっていたのに、ボクはAVの返却作業を避けていた。結局、最後まで一人もAV女優の顔も名前も覚えることができなかった。他のアルバイトがパッケージを食い入るように興奮して見ているのに、ボクには全くといっていいほど感じるものがなかった。人手の関係でAVコーナーの返却作業を任された際は、なかなか作業が進まなかった。

 これがクラッシ映画に出てくる女優だったら、覚えてるのに……イングリッド・バーグマン。エリザベステイラー。ヴィヴィアン・リー。キャサリン・ヘップバーン。ボクが知っている女優はほとんどが既に墓の中に入っていた。

 やっぱりボクって普通の男性と違うんだろうな……そう強く意識をしてしまった。ただでさえ流行にも疎く同年代の大学生とは話が合わないのに、その上にゲイで話が合わないのがプラスされていた。ボクと話があって仲良くなる人は大体が世間的には変人扱いされている人が多かった。ただ変人扱いされるのも特なことがあった。

「神原さんって変わってますよね?」

 その一言で三十歳過ぎて独身でいても、周囲からゲイ扱いされないという少し嬉しいような悲しいような特典がついていた。

<つづく>