同性への憧れと恋愛の境界線<3>

 彼とは週に二回ほど塾で顔を合わせるようになった。

 彼はボクの顔を見る度に、「おっす!」という挨拶をしてきて、ボクは真面目に「こんばんわ」と返していた。そして相変わらず手の骨をボキボキとマイペースに鳴らしていた。彼を観察していると、難しい問題を解くために集中すると無意識に手の骨を鳴らす癖があるようだった。

 彼と塾の先生と会話の断片から、彼はボクより二歳年上で別の高校に通っている三年生であること。そして医学部を目指していることがわかった。

 見た目も頭が良さそうだけど、実際に勉強もできるんだ。でも本当に変わった人だな。    

 そんなことを思いながら、真面目に黙々と勉強している彼を見る度に、塾で適当に時間を潰しているボクには眩しく見えた。

 彼と出会ってから一ヶ月ぐらい経った。高校の通学中に何度か自転車に乗っている彼とすれ違った。今まで気が付かなかったけれど、同じ学区に住んでいるようだった。恐らく彼の顔を覚える前からも何度かすれ違っていたのだろう。

「おっす!」

 彼はボクの姿が目についたら、すぐに気軽にいつもの挨拶をしてきた。

「おっす!」

 勇気を出してボクも同じように声をかけると彼は笑顔で通り過ぎていった。それからも何回か通学中の彼とすれ違うことがあった。その度にお互い同じ挨拶を繰り返していた。でも挨拶はするけど、塾で会っても何か特別に会話をすることはなかった。

 この時期からボクの中で、彼への好奇心がどんどん増して来ていた。そして気がつくと好奇心から恋愛感情に近い感覚に変化しつつあった。

 ボクは彼の名前も知らなかった。

 どうしても彼の名前を知りたくてしょうがなかった。いきなり先生に訊くわけにはいかないし、本人に訊く勇気もなかった。

<つづく>