同性への憧れと恋愛の境界線<6>

 好きな人のことをもっと知りたいと思う気持ちはあるけど、それは同性愛でも同じのようだ。ボクはずっと彼のことを知りたいと思っていたけれど、こんなにも身近な所で、彼の情報が沢山あるとは思いもしなかった。

 彼の母親は、ボクの母親の勤め先に出入りしていて、それがきっかけで知り合いになったらしい。ボクの母親はママ友グループとの付き合いがほとんどないのだが、彼の母親も同様のようで、お互いに気があったようだ。

「そういえば、あなたが小学生の頃、うちのお兄ちゃんの中学校の運動会に行ったでしょ? その時、横溝さんの母親と子供に会ったでしょ?」

「えっ……そんなことあったけ?」

「お昼ご飯も横溝さんと一緒に食べたじゃない。覚えてない?」

「そういえば誰かと食べた気がする……」

「ご飯を食べた後、横溝さんのお兄ちゃんに遊んでもらったでしょ。それも覚えてない? その人があなたが塾で会ってるお兄ちゃんよ」

「そういえば……誰かと遊んだ記憶がある」

「人見知りのあなたが、珍しく初対面の人と仲良く遊んでたから、よく覚えてるわよ。あなた……そのお兄ちゃんに凄くなついてたわよ」

「ふ〜ん」

 ずっと初対面だと思っていた人と、過去に会ったことがあるとは思いもしなかった。

 本当はもっと話しを聞きたかったけど、母親にはゲイであることを隠しているので、これ以上は話すことができなかった。異常に知りたがれば不信感を招いてしまうので、興味がなさそうな反応をした。それでも、有難いことに母親の話は続いていた。

「そういえば、横溝さんの弟も知ってるはずよ。小学生の頃にあなたと同じ習い事をしてて、顔を合わせてるはずよ。A町の橋の所でバスから降りる男の子がいたでしょ。それが彼の弟だけど、あなたより二歳ぐらい年下じゃないかな? 仲良く二人で話してるのを見たことがあるけど」

「そういえば、そんな男の子がいて、バスの中でも一緒にお喋りしてた気がする」

 その男の子の顔を思い浮かべると、なんとなく彼に似ていた。

 最後に母親は恐ろしい発言をした。

「母親同士が知り合いなのを知ってるみたいで、よくすれ違うけど、きちんと挨拶してくるわよ。あのお兄ちゃん……カッコいいよね。見た目は派手でじゃないけど、真面目で誠実そうだし。あなたもあんな感じの人を目指しなさいよ!」 

 この親にしてこの子あり。流石はボクの母親だと思った。

<つづく>