同性への憧れと恋愛の境界線<7>

 母親から話を聞かされた夜。ボクは布団に入ってから過去のことを思い出していた。

 あれは確か小学五年の頃だったと思う。母親と二人で兄の運動会を見に中学校に行った時だった。朝から夕方まで運動会はあった。母親は真剣に運動会を見ていたが、ボクは中学校の運動場にある遊具で遊んでいた。小学校と違い、中学校の遊具は面白いものもなく、ボクは退屈でしょうがなかった。

 早く運動会が終わればいいのに。

 そう思いながら、何度も時計を見ては時間が遅々として進まないのに、うんざりしていた。一人で遊ぶのに飽きて母親の所に戻ると、母親は見知らぬおばさんと二人で仲良く話をしていた。そのおばさんはボクの顔を知っていたようで、笑顔で挨拶をしてきた。ボクは誰かはわからなかったけれど、挨拶を返して三人で運動会を見ていた。そのおばさんが横溝さんのお母さんだったのだ。

 ある学年の徒競走が始まった。おばさんは、はしゃいで自分の子供の名前を連呼していた。よくよく思い出すと確かに自転車に書かれていた彼の名前だった。

 そして昼休みになってから、ボクらは横溝さんの家族と一緒にご飯を食べた。ボクの兄はご飯を食べると、さっさと友達の所に遊びに行ってしまった。母親同士は仲良く雑談しているし、ボクはまた一人で取り残されてしまった。その時、横溝さんが声をかけて遊んでくれたのだ。昼休みの一時間という短い時間だったけど、中学校を案内してくれたり、山の中で遊んでくれたりした。とても優しく面倒を見てくれたのを覚えている。当時は彼のことが誰だか分からないまま遊んでいたんだと思う。名前も知らないまま遊んでいた。昼休みが終わって、彼が去っていくのを寂しい気持ちで見送ったことを思い出した。

 ついでに彼の弟のことも思い出していた。小学生の頃、彼の弟と同じ習い事をしていた。送迎のバスが一緒で二人でよく話をした。その男の子はボクよりも先の停留所でバスから降りた。そして降りてすぐ近くの道路沿いにある家に入って行く姿が見えた。それが横溝さんの家だった。その家はボクの高校の通学途中にあって、彼と通学途中によく出会うのもその家の近くだった。

 なんだ……全部知ってるじゃないか。

 好きになって知りたいと思った彼のことは、ボクの記憶の中に全部あったのだ。ボクは一人で布団の中で嬉しくなって泣いていた。そして少しづつ悲しくなって泣いていた。

 同性から「好きです」なんて言われても迷惑なだけだよね。

 他の男性を好きになった時は、自分が男性に生まれたことに後悔なんてしなかったけれど、彼を好きになった時は男性で生まれたことに悲しいほど後悔していた。何度もベットの上で起き上がっては、暗闇の中で昔の彼との記憶を思い出して嬉して泣いたり、同性愛であることが悲しくて泣いたりを繰り返していた。

 その日は、なかなか寝付くことができずに、深夜三時近くまで起きていた。

<つづく>