カミングアウトの代償<2>

 興味を持って話しかけて来る同級生がいる一方で、初めからボクに対して嫌悪感を露わにする同級生もいた。

「あれで……あいつホモらしいよ。マジで気持ち悪い」

「どうみても男じゃん。あれでホモ?」

「ホモとかマジで勘弁して欲しい。死ねばいいのに」

 明らかにボクに聞こえるように話している時もあったが、ボクは彼らの存在を無視していた。 

 大人になってから職場などの公の場でカミングアウトしたことはないが、大人の世界でカミングアウトしても、こんなことを直接的に言われることはないのかもしれない。職場でこんなことを本人に直接に言うと現在の社会ならセクハラ扱いになる可能性もあると思う。その点、子供は無邪気で残酷だった。

 でも本当にボクを精神的に疲れさせたのは、面と向かってボクを否定する発言をする人達よりも、興味本位で話しかけて来る人達の方だった。 

 興味本位で話しかけて来る人達。

 例えばこんな連中だった。

「神原から見たらA君とB君のどっちが好み?」

 もちろんA君とB君も男性だ。正直に言えば、A君とB君も興味がなくて、どうでもよかった。同級生も本気で質問をしているわけではなかった。その場の雰囲気を盛り上げるために質問しただけだ。ボクはその場の雰囲気を読んでノリだけで会話していた。

「う~ん。B君かな」

「アホか! マジで殺すぞ」

 ボクの発言を聞いたB君は笑いながら軽く流していた。その場はボクの発言と、ボクの発言を受けた君のリアクションを見て盛り上がっていた。

 他にもこんな例がある。

「そういえばC君がお前のこと好きらしいよ」

 そんなこと冗談に決まっている。ボクが本気になったら面白いと思って揶揄って言っているのだ。ボクも冗談で受け流していた。

「いや〜むしろC君よりD君の方が好きかな」

「おい! 神原ってD君のことが好きらしいぞ!」

 D君に向かって大声で知らせる同級生。

「マジで! 俺……神原とセックスするの? 心の準備が出来てないんだけど」

 それを聞いたD君は爆笑しながらそう叫んでいた。

「はははははっ……冗談でしょ。冗談!」

 その場に居合わせた同級生たちはケラケラと笑ったいた。そこには相手に合わせて笑っている自分がいた。 

 本当にバカみたいだ。

 気づくと同級生の間ではホモのキャラクターとして定着していた。

 当初は何だか知らないけど相手が楽しんでいるのならそれでいいと思っていた。でも、そんな感じで対応をしていると、同級生の中ではノリのいい奴という風に誤解を生み始めていた。ボクはコミュニケーションを取るのが苦手だったので、相手から気軽に話しかけてくれるのは有り難かった。でもボクは多数の人間と同じ距離を取りながら広く浅く付き合うのが苦手だった。特定の少数の人間と狭く深く付き合うのが好きだった。無理をしてキャラクターを演じていると、自分がどんどん辛くなってくるのを実感していた。でも、今更になってホモのキャラクラーを演じるのを止めることはできなかった。同級生はどんどんボクに演技を求めて話しかけて来る。

 少しづつボクの心の中で歪みが広がっていた。
 
<つづく>