カミングアウトの代償<3>

 ボクはホモのキャラクターを演じるの止めたかった。でも演じることを止めてしまえば、今までボクに興味を持って話しかけて来た人達ですら、面と向かって否定する発言をして来るのではないかと予感して止めることができなかった。

 以前、インターネットの悩み相談サイトで、『学校でゲイであることを隠して生きるのがつらいので、カミングアウトした方がいいのか悩んでいる』といった投稿を見かけたことがある。

 ボクの経験ではノンケの演技を止めてカミングアウトをすれば、次はゲイの演技を続けなければならなかった。どちらが辛いかと言えば後者の演技の方が辛いと思う(もちろんボク自身の個人的な体験と感想だけど)。

 そんな不毛な演技を続けながら高校時代を過ごす中、自然体のままで付き合っていた同級生が一人いた。松田君という生徒だった。

 高校に入学して同じクラスになり、たまたま出席番号順に並んだ際、隣の席になったのだ。彼とは卒業するまで三年間ずっと同じクラスだった。彼はマイペースな性格で、ボクがゲイであることに興味もないようで、普通の友人として接してくれていた。ボクと同じく、人間関係も狭く深く付き合うタイプだった。

 サスペンスが好きで、アガサクリスティーやコナンドイルや松本清張や赤川次郎や西村京太郎や山村美紗など推理小説ばかり読んでいた。ボクもアガサクリスティーや松本清張が大好きで、両作家の本はよく読んでいたので彼とは趣味が一致していた(ちなみにボクはアガサクリスティーの『春にして君を離れ』という小説が大好きだ。アガサクリスティーには珍しく推理小説ではないけど)。

 お互いに推理小説を読んでは、その本を貸し借りして本の感想を仲良く話していた。恐らく他の同級生が聞いても意味の分からない話を二人で延々としていただろう。

 ボクは松田君の前ではホモキャラクターを演じることなく自然体でいられた。彼と話していると心が休まるのを感じていた。休み時間になれば二人で雑談をして一緒に下校していた。

 しかし、ゲイであることを知られているボクと仲良く遊んでいれば、妙な噂が立つのも時間の問題だった。

「神原と松田はホモ同士の関係で本気で付き合っているのではないか?」

 そういう噂が学校内で広まっていたのだ。
 
<つづく>