カミングアウトの代償<4>

「神原と松田の関係が怪しい」

 そんな噂がボクの耳にも入って来た。これはまずいな……松田君の耳に入る前に噂を消しておかないといけない。でも噂は瞬く間に広まってしまい、すぐに松田君の耳にも入ってしまった。

 ボクは恐る恐る彼の反応を伺っていた。

 ただ噂を聞いた後も、松田君は特に気にしてもなさそうだった。「馬鹿馬鹿しい」と言った感じで取り合っていないようだった。

「ホモ同士が仲良く話して怪しい!」

「おぉ! 夫婦で会話か?」

 ボクらが話している姿を見つけては、そんなことを言って冷やかしてきた。けれど、ボクらはいつも通りに会話を続けていた。ただ松田君に迷惑をかけて申し訳ない気持ちで一杯だった。ある時期から、ボクは松田君に恋心に近い気持ちを抱くようになっていたのは事実だった。その松田君に迷惑をかけるのが、たまらなく嫌だった。

 ボクはもうホモのキャラクターを演技することに耐えられなくなった。

 気がつくと学校を欠席する回数が徐々に増えていった。三週間に一回ほど欠席するようになり、それが二週間に一回の欠席になり、高校三年になった頃は、毎週一回は欠席するようになっていた。定期試験が終わった後など、連続して休むようになっていた。答案用紙の返却と試験の答え合わせの授業なんてどうでもいいと思っていた。一週間ぶりに学校に行って、先生からまとめて十枚近くの答案用紙を返してもらうようになっていた。

 なぜ学校を休むことが可能だったかというと、ボクの母親はあまり学校に期待していなかったからだ。ボクが休みたいといえば、さっさと学校に風邪で欠席すると電話をしていた。参観日にもまともに来たことがなかった。

 母親の学校への関心のなさは、ボクの小学時代に遡る。ボクが小学生の頃に、クラス内で大きな事件があった。恐らく今の時世なら全国ニュースになっているような事件だった。学校側は問題を起こした担任の教師をすぐに転勤させて、被害にあった生徒や保護者には何の説明もないまま幕引きした。この事件は今でも関係者の間で不満も含めて語り継がれている。

 その事件以降、母親は学校に何の期待もしなくなっていた。問題がない程度で定期試験の点数が取れていれば、学校に行かなくても不問に付していた。

 高校に行けば、ホモのキャラクターの演技を止めることはできなかったけれど、欠席が多くなっていたボクに対して、同級生が距離を置き始めていた。
 
<つづく>