あの女子生徒に神原がホモだということを、どうやって伝えるのか?
同級生達はあれこれ案を出して検討を続けていた。ボクはそんな同級生達を黙って見ていた。いつのまにか自転車置き場に松田君の姿があった。そして同級生の一人から一連の経緯の説明を受けていた。彼は特に興味がなさそうに話を聞いていた。
手紙を受ける場面を松田君に見られなくてよかったと思った。
ボクは松田君に声をかけて、同級生達を置き去りにして、一緒に帰宅することにした。校門から自転車置き場を振り返ると、彼らは相変わらず談義に熱中していた。
カバンの中の手紙が気になってしょうがなかった。早く一人になって手紙の中身を確認したかったけど、松田君と二人で話す時間も好きだった。この頃になるとボクは松田君に恋心を抱いていた。
自転車を押しながら並んで歩いていると松田君が言った。
「いや〜神原さん。あんたもモテますな」
楽しそうにニヤニヤ笑っていた。
「これって不幸の手紙じゃないかな?」
「謙遜なさるな。わしのような年寄りには、若い連中が羨ましいのう」
彼はよく何かのモノマネをすることに凝っていて、今は時代劇ドラマの年寄り役らしい。一週間もすれば別の役のモノマネを始めるので深くは追求してはいけない。この前はサスペンスドラマの刑事役をしつこいほど演じていた。
「松田君はラブレターもらったことないの?」
「つい最近も貰ったよ」と言われたらどうしようとドキドキしながら質問していた。
「ラブレターか遠い昔の話じゃのう。死んだ婆さんからもらったのう。あの頃の婆さんは美人じゃった」
「あっ……そう」
反応に困ってしまう。真面目に訊いた方がバカだった。彼はいつまで老人の演技を続けているんだろう。
「わしも老い先が短い身じゃ。あの世で婆さんが待っとるじゃろう」
ボクは隣を歩く松田君の顔をちらりと見た。年寄りのモノマネをしているためか少し背筋を曲げて歩いていた。彼のそんな子供ぽいところもボクはたまらなく好きだった。「世の中の女性はなんて見る目がないんだろう」と思った。自分が女性に生まれていたら、松田君に告白してるんだけどと思っていた。ボクは自分のことが好きではなかった。内面的な性格も嫌いだったし、外面的な見た目も嫌いだった。よくある思春期特有の自己嫌悪というものを強く抱いていた。
ボクらはいつもの交差点で別れた。
ボクは自転車を漕いで、急いで河原沿いの道まで来て自転車から降りた。そしてカバンの中から手紙を出して広げた。
<つづく>