住吉奇譚集<2>

 終点の西鉄天神駅に着いた。

 ボクは知り合いに顔を合わせないよう急いで電車を降りて、中央改札口をくぐった。そしてエスカレーターを降りた。エスカレーターの出口には沢山の人がたむろしていた。土曜日の二十一時過ぎ。今から大名などの繁華街で遊ぶ人たちなのだろう。ボクは彼らの前を通り過ぎて渡辺通りに出た。そして五分ぐらい歩いた場所にあるスターバックスに入りコーヒーを注文してから席につき、鞄からメモ帳を取り出して、電車の中で考えたことを忘れないうちにメモした。

 ボクが前々から立てていた計画。

 それは有料ハッテン場で、自分が体験したことや、考えたことなどを、すぐにメモして忘れないうちに文章にして残してみたかったのだ。

 そして今、その書きなぐったメモを頼りに文章を書いている。

 以前から思っていたのだが、ボクは有料ハッテン場に行く度に、同性愛者としての生き方などを考えさせられる機会が多かった。ただ……時間が過ぎれば、何を考えていたのか忘れてしまっていた。忘れないうちに文章にして克明に残してみたかったのだ。そして数年後に読み返してみたら面白いかもしれないと思っていた。

 ボクはメモが終わると、スマホを取り出して今から訪れる有料ハッテン場を探し始めた。

 そう……リアルな体験談を書いてみたいという欲求はあったのに、まだ肝心の店を決めていなかったのだ。

 周囲の人の目を気にしながらこっそりとスマホの画面を見ていた。有料ハッテン場のサイトは、ゲイ向け内容が多く、トップページに裸や水着姿の男性の画像が、デカデカと載っているサイトが多い。そんな……いかがわしいサイトを見ているのがバレてしまったら周囲から白い目で見られてしまうに違いない。ボクは周囲の目を憚りながら、いくつか有料ハッテン場のサイトを巡回していた。そして各サイトの掲示板の書き込みを確認していた。

今晩七時来る人いますかー? スリム受けに挿れたい。
174.63.25
二十時くらいにやれる人いませんか?
170.60.28
今日行くけど誰か行きませんか?エロくやりたいです。
170.56.24

 実際には、こういった掲示板への書き込みは当てにならない。

 そもそも本当に誰がしているのかわからないのだ。客を呼ぶために店員が書き込みしている場合もあるだろし、先に店に入った人が、好みの相手がいなくて人を呼ぶために嘘の書き込みをしている場合もある。それに行きもしないのに冷やかしで書き込みをしている人もいるにちがいない。実際に店に入ってみても、そんなプロフィールの人はいないといったケースは過去に何度も味わって来た。でも疑ってみてもキリがなかった。

 どうせなら行ったことのない店に決めようかな?

 有料ハッテン場の店は移り変わりが激しい。次々と古い店が潰れては新しい店に変わっていく。ボクが数年前に行った店は軒並み潰れていた。ボクはいくつか候補から住吉神社近くの有料ハッテン場に行くことに決めた。

「比較的に若い人の書き込みが多いみたいだし、これ以上、迷っていても時間がもったいない。もうこの店に決めた!」

 ボクは有料ハッテン場のホームページに記載している住所を地図アプリに入力してから、コーヒーカップを捨ててスターバックスを出た。そして福岡のゲイタウンの住吉に向かった。

<つづく>