住吉奇譚集<3>

  渡辺通り沿いを歩いていたが、天神南の交差点から路地裏に入ることにした。まずは住吉に向かえばいいことは分かっていたので、路地裏を斜めに突っ切って住吉通りまで出ることにした。路地裏の飲み屋から、焼き鳥を焼くの匂いがした。あまり治安のよさそうな場所ではないので、ボクは先を急いだ。十分くらい歩くと急に道幅が広くなり住吉橋通りに出た。そして那珂川にかかった住吉橋を渡った。

 この住吉橋を渡ったら、いよいよゲイタウンに突入か。

 橋の上からあたりを見渡すと、立ち並ぶビルがとても綺麗に見えた。ボクはポケットからスマホを取り出して目的地を確認した。

 あと五分くらいでつくかな?

 ここから先は、スマホの案内を頼りに目的地に向かうことにした。そして地図を見ながら住吉の街を歩いて目的地の周辺に着いた。しかし目的地近くまで来ているはずなのだが、目当ての店はなかなか見つからなかった。

 店を探している途中、不自然な日本家屋風の門が目についた。門の奥は薄暗くて何があるのかよくわからなかった。

 なんでビルの谷間に、日本家屋風の門があるんだろう。

 周囲はビルばかりで、日本家屋風の門が不自然に存在していた。ボクはその門の前を、不思議に思いつつも通り過ぎて道を進んだ。アプリの地図を見ていると、どんどん目的地の住所から離れていることがわかった。スマホがない時代は頭の中に地図を叩き込んだり、ホームページを見ながら手書きで地図を写して、その紙を見ながら目的地を探していた。便利な時代になったものだ。

「これはいけない。まずは初心に帰るべし!」 

 ボクはもう一度、有料ハッテン場のホームページの案内図を見た。他の有料ハッテン場もだけど案内図の下には具体的な店への行き方が書いてあることが多い。つまりそれほど店は目立たないように存在しているのだ。最終手段として店に電話して場所を訊くこともできるようになっていることも多い。

 マッサージ○○○店の黒い自動販機の真向かいの茶色の門を潜った細い路地裏の奥。二階建ての一軒家。

 案内図の下にはそう記載されていた。
 
「どれどれ……まずは『マッセージ店』?」

 ボクは先ほど通り過ぎた道にマッサージ店があったことを思い出した。そしてマッセージ店まで戻って店名を確認した。

「次はそのマッサージ店の『黒い自販機』ね」

 ボクの立っている道路の向かいにはマッサージ店と黒い自動販機があった。自動販売機の前では年配のタクシーの運転手が、さっきからキョロキョロあたりを見渡しているボクを怪訝そうに見ていた。

「えぇ~と次は何だ?『黒い自動販売機の真向い茶色の門』ね」

 次はその黒い自販機の真向かいってことは……真向かいってどっちだ? そっか! ボクの真後ろだ。ボクは後ろを振り返ると、前の前には、先ほど不自然に感じた日本家屋風の門があった。

「な~んだ。さっき通り過ぎた、この門だったのか。次は『茶色の門を潜った細い路地裏の奥』ね」

 薄暗い門の路地裏の先をじっと目を凝らして見ると、そこには『二階建ての一軒家』があった。

<つづく>