住吉奇譚集<5>

 暗いまっすぐな道を進むとロッカールームに着いた。

 店内の配置図はホームページになかったので、この先がどんな間取りになっているのか進んでみるまで分からなかった。まずはロッカーキーに書かれた番号を見ながら、自分のロッカーを探していると、奥の方から次々と先に来ていた客が顔を出してきた。

 早速、品定めに来たな。

 店に入った時にチャイムが鳴ったが、このチャイムには二つの意味がある。一つは店員に客が来たことを知らせるため。もう一つは先に来ていた客に知らせる意味がある。店にもよるけど、チャイムやロッカーの開け閉めの音が聞こえると、新しく誰かが来た、もしくは誰かが帰ったことがわかる。先に中にいる客は、入り口あたりで物音が聞こえると、自分の好みの客が来ていないか確認するために顔を出すのだ。

 次々と店の奥から入れ替わりで人が出てきた。そしてスマホを操作しながら、ジュースを飲みながらボクを品定めしていた。

 あの〜思いっきり態度に出てるんですけど。

 ボクに対して興味がない人は、一瞥しただけで立ち去っていく。興味がある人はしばらく動かないで、ボクの様子を伺っている。あまり見られると服を脱ぐのも恥ずかしくなってしまう。ボクは落ち着かない気持ちで服を脱いで下着一枚になった。今日は下着の着用が許可されている日だった。

 そして服を脱ぐとロッカーキーを右足に巻きつけた。右足にロッカーキーを巻きつけるのは『リバ』を意味している。つまり『タチ(S役)』でも『ネコ(M役)』でも、どっちの役でもこなせることを意味している。ロッカーキーのつける位置は有料ハッテン場ごとに少し異なっていることがある。店ごとのルールはホームページや店内の貼り紙に記載されている。

 店によっては女装や極端に太ってる人はお断りされる場合もあるようだけど、有料ハッテン場の大まかルールは同じだ。

 有料ハッテン場では色々な人に出会える。

 以前、別の有料ハッテン場に行った時、首輪をつけて犬のように繋がれて歩いてる人と会った。後ろには手綱を引いているご主人様がいた。他にも裸の状態で黒い覆面(イスラムの戦闘員みたいな)をしている人と会ったこともある。薄暗い闇の中から覆面をした人が突然出てくるのは恐怖だった。別にゲイに限った話ではないけど、性的な趣向も様々で面白い。

 ボクはトイレで用を足した後(浣腸用のシャワーがある不思議なトイレだった)、次にシャワーを浴びようとシャワールームに移動した。シャワールームは二つあって、どちらも使用中だった。ボクはシャワールーム前に立ち止まって店内を見渡していた。

 福岡の有料ハッテン場にして、割と規模が大きくて新しい店だな。

 もともと旅館か何かの建物だったのだろう。シャワールームの横には家庭用にしては大きすぎる四人くらいが同時に入浴できそうな浴槽があった。ただ浴槽は使用出来ないようなっていて空の状態だった。

 若い男性がシャワールームから出て来たのと交代してシャワーを浴びた。
そして身体を拭いてからロッカーにタオルをかけた。さっきまでボクを品定めしていた人達は誰もいなくなっていた。

 よし。それじゃ行きますか!

 どんな人に出会えるのか期待しながら店の奥に踏み出した。

<つづき>