ゲイとして生きる君へ

中学時代に同性愛に目覚めカミングアウトしてました。現在は隠れゲイ@福岡。過去の思い出や現在のことを綴っていきます。

住吉奇譚集<8>

 鏡に映った自分の姿は、二十代の頃の体付きとは大きく違っていた。まだ太ってはないけど、目の前を歩いていく二十代の男性たちのような若々しい引き締まった体ではなくなっていた。ボクは急速に自分に対する自信を無くして、思わず鏡から目をそらしていた。

 少し筋トレとかしないといけないかな。

 ボクはゲイ業界で一番人気のある短髪のマッチョな男性が苦手だった。ボク自身は髪の長さも普通だし普通体型だ。毎日、最低でも五キロは歩くようにしているし、毎朝は起きてから十分くらいストレッチをするようにしている(これをやると朝から仕事に集中できるからだ)。筋トレは週に一回くらい軽くやっているだけだった。お菓子も週に一回か二回くらいしか食べなくて、お菓子の代わりにカフェかコンビニのブラックコーヒーで済ませていたいた。インスタント食品も滅多に食べず、自炊してバランスよく食事していた。かなり健康に気おつけていたけど、それでも限界を感じていた。

 そろそろジムに行って水泳とかやってないと、体型が崩れそうだよな。

 そうはいっても無理に若々しい感じを頑張って維持するのも嫌だった。職場で働く同僚たちも三十代を過ぎたあたりから、どんどんお腹が出てきていた。昔はみんな細身だったのに、運動をしないでごまかせる年齢的な限界がきていた。

 十年なんてあっという間だったな。

 目の前を通り過ぎて行く二十代の男性たちの肉体を眺めながら、大学生の頃の自分が懐かしく思えた。

 部屋の中では三十代の男性が寝転がって、お尻を突き出して相手を誘っているけれど、二十代の男性たちは部屋を覗いては、次々にうんざりした顔をして通り過ぎていった。

 ちなみにゲイの中では、タチとネコの比率では、圧倒的にネコの比率が多い。個人的な意見だけど、若い頃はネコでもなんでもモテるけど、ある一定の年齢を超えると、ネコ一本で生きていくのは難しいように感じる。四十代中盤ぐらいが限界で、あるタイミングでタチかリバにならないと誰にも相手にされなくなる可能性が高いのではないかと思う。

 有料ハッテン場に十人くらい客がいても、全員がネコで、みんな誰かが相手をしてくれるのを待っていて全く盛り上がらないってケースもよくあるのだ。

 ネコばっかりだから誰かタチの人来て! 


 有料ハッテン場の呼び込みの掲示板に、こういった書き込みがされることもよく見かける。ある一定の年齢が過ぎたら、需要の多いタチに鞍替えするしか生き残る道がないように思う。

 ボクは家に帰りたくなっていたけど、終電の時間まであと数分だった。急いで店を出て駅まで走れば間に合うかもしれなかったけど、すぐに店から出ていくのも恥ずかしかった。

 あいつ誰も相手にされないから、さっさと帰って行きやがった。

 そう思われるのが辛かった。ボクはつまらないプライドからダラダラと時間を過ごして、終電の時間が過ぎてしまった。

 それにしても不思議な店だった。普通は十人くらいいれば、何組かのカップルが出来上がっているはずのなのに、みんな二階を歩き回っては一階に戻って少し休んでから、また二階を歩き回るのパターンを繰り返していた。

 ボクは壁にもたれて立つのも疲れて、歩き回るのにも疲れていた。

 どうしよう……もう終電の時間は過ぎてしまったし、どこかの個室で仮眠でもしてから、始発に乗って帰ろうかな?

 終電が終わったばかりで、始発の五時十五分の電車が出るまで六時間以上あった。有料ハッテン場はシャワーもついているし、洗面台もあって、ホテルと同じように使い捨ての髭剃りや、歯ブラシも置いてある。実際にビジネスホテル代わりに利用しているゲイもいる。ただボクは店内の流れる音楽がうるさくて、仮眠ができる自信がなかった。どこの店もどうしてダンスミュージック系の音楽を大きい音量で流しているのだろう。

 このままでは……仮眠することも出来ないよな。

 ふとボクはそもそもこの店に来た理由を思い出した。

 そういえば……今日は自分の有料ハッテン場での体験を記録に残すことが目的だったな。このまま朝までこの店にダラダラいるよりも、もう一軒ほど行ったことのない店に行ってみようかな?

 恐ろしいことに有料ハッテン場をはしごしてみたいという気持ちが沸き起こってきた。

<つづく>