住吉奇譚集<10>

 どうみても……普通の民家だよね?

 地図アプリの示していた、目的の住所に到着していたけど、目の前にあった建物は、三階建の民家だった。

 もしここが有料ハッテン場ではなくて、普通の民家だったら、深夜一時に民家のベルを鳴らした不審人物になってしまう。

 どうしよう……呼び鈴を押した方がいいのかな?

 よくみるとドアの取っ手付近に、確かに店の名前のステッカーが貼ってあった。ただ前の店と違って、店の前で何分か時間をつぶしていても、他の客は姿を現さなかった。

 ボクは誰かが現れるのを待つのを諦めて、周囲に人がいないことを確かめて、試しに取っ手を引いてみた。すると鍵がかかっていないようで、ドアは簡単に開いた。

 玄関に入ると目の前にはビニール袋が置いてあって、靴を脱いで袋に詰めて、右のドアを開けて進むように指示が書いてあった。

 本当に民家じゃないよね?

 今まで何件もの有料ハッテン場に来たけど、ここまで普通の民家ぽい店は初めてだった。ボクは指示通りに靴を脱いで、恐る恐る右手のドアを開けた。これで民家だったら、ボクはただの不法侵入者になってしまう。

「なんで民家に侵入したの?」 

「いや〜ボクってゲイなんで、有料ハッテン場と思って建物に入ったら間違ってて民家でした。てへぺろ」

 警察に捕まって、そんな自白をするなんてまっぴらごめんだ。

 目の前には、薄暗い小部屋が広がっていて、右手にはロッカーがあった。部屋の中を進むと奥には階段があって、左側に受付があった。

 よかった……民家ではないようだ。

 受付に声をかけると年齢も伝えていないのに料金を請求された。話し声と話している雰囲気で、四十五歳以下と分かったのだろう。店員にお金を渡すと代わりにロッカーキーとタオルとバスローブを渡して来た。受付を離れて店の奥の休憩スペースに進むと、そこには今まで体験したことがないような異様な光景が広がっていた。

 さっきの店では、ボクより若い二十代ばかりいたけど、次の店ではボクよりも遥かに年上の人たちで一杯だったのだ。
 
<つづく>