カミングアウトの代償<17>

 ボクは学校に戻ってから、ホモキャラを演じることを止めた。

 今まで表面上は仲良く付き合っていた人達とも距離を取るようにした。ボクの演じていたキャラクターもちょうど飽きられ始めた時期だったのだろう、それから多くの同級生達がボクの前から去って行った。そして何人かは、ボクに聞こえるように「気持ち悪い」とか、言っていたけど無視していた。最後に残ったのは松田君を含めて三人だった。

 ちょうど大学受験が迫っていた時期だった。みんな自分のことで忙しくなっていた。クラス内でいじめられている生徒もいたけど、そんなことをしている暇も無くなっていた。

 ボクは同級生の間では、完全に道化だった。

 もう二度と、こんな道化を演じることは止めよう。そう固く決意した。ただ……ボクはもう一度、似たような過ちを繰り返してしまうことになる。それは社会人時代になってからのことだ。

 ボクは学校を休んでいる時も、国語、日本史、英語の三教科はきちんと勉強していた。なぜこの三教科だけでよいかというと、初めからセンター試験を受けるつもりがなくて、私立大学の文系受験をするつもりだったからだ。もともと国語は得意だったし、日本史も好きだった。英語は単語、熟語、文法を覚えておけば、人並みには点数が取れるので、とにかくこの三教科だけはきちんと勉強していた。だから勉強面に関しては学校に戻る時も心配ではなかった。

 ボクはホモキャラを演じる必要がなくなって安心しているある日だった。

 学校から自転車を押しながら帰っていると、道の向こうに黒い学生服を着た二人の生徒がいた。ボクが歩いているのは田んぼが並んでいる農道で、その先には踏切があった。その踏切の前で二人の学生が自転車を止めて雑談していたのだ。ボクは徐々に近づきながら、なんとなく見たことがある人達だなと思っていた。十メートルくらい近づいた段階で二人が何者なのかはっきりと思い出していた。

 きっと……小学時代の同級生だ。

 この二人とは特に仲が良くて、親同士も友達だった。毎日学校で一緒に遊んでいたし、お互いの家に行き来してよく遊んでいた。小学校を卒業してから五年近く経っていたけど、卒業後は一度も会っていなかった。ボクは懐かしくて気軽に声をかけた。

「久しぶり!」

 二人とも話すことに夢中になっていて、ボクが声をかけるまで近づいていることに気がついていなかった。ボクの声を聞いて、二人は揃ってボクの顔を見た。そして二人とも何故か気まずそうな顔をして、お互いの顔を合わせていた。ボクは懐かしくて気軽に声をかけたけど、二人の反応を見て様子がおかしいことに気がついた。

<つづく>