住吉奇譚集<14>

 ボクが年配の人たちが手を出して来るのを断り続けていると、少し若い感じの人が部屋に入って来た。先ほど見かけた四十代前半ぐらいのメガネをかけた男性だった。少し顔を近づけて、ボクの顔を見ると、「おっ……こいつ他のメンバーより若いな」と驚いた顔をして、少し立ち止まって後、ボクの近くに座ってきた。そしてボクの方に徐々に手を伸ばして体を触ってきた。ボクが拒絶しないで放っていると、体を近づけてきて耳元で囁いた。

「ベッドの部屋に行かない?」

 ボクが頷くと、彼はボクの手を取って三階のベッドのある部屋まで案内してくれた。正直にいうと、眠気が強くてキツかった。もうこのままこの人と寝ている方が、年配の人に襲われないので安全だと思っていた。身長は百七十センチくらいの普通体型で、髪の長さも普通で清潔感があった。

 ベッドに横になると、お互いの腕を枕にしてボクらは会話を始めた。

「若いよね……何歳?」

「三十五歳です」

「三十五歳か……一番モテる年齢だね」

 さっきの店で二十代の若者から誰にも相手にされなかったことを思い出しながら、「そうでもないけど」と心の中で思っていた。ボクは別の話題を切り出した。

「この店って年齢層が高いですよね?」

「そう? もう慣れちゃってて、疑問に思わないけど、そういえば初めて来た時はそう思ったね」

「ここまで年齢層が高い店は初めてだったんでヒイてしまいました」

 彼はボクの言葉を聞いて笑っていた。

「俺も初めて来た時は、そうだったかも」

「自分の父親より年上の人と関係を持つのはキツくないですか?」

 ボクの質問にしばらく考えた後、彼はゆっくりと話し出した。 

「でもね……五十代や六十代の男性って、俺も最初はキツイなって思ったんだけど、不思議な色気があるんだ」

「不思議な色気?」

「うん……若い頃はスポーツとかやってて、歳を取っても引き締まった体を維持している人もいるし、体型が維持できてなくても、昔は鍛えてたんだろうなって思う人もいるし、そういう人たちには何とも言えない魅力を感じることがあるよ」

  なんとなく若さを失ってしまうことへの儚い喪失感のような魅力のことかと思ったけど、はっきりとは分からなかかった。

「ボクにはわからないですけど、そんな視点もあるんですね」

「うん……昔は鍛えてたんだろうなって思わせるような人には、お爺ちゃんになっても、大人の魅力を感じることがあるんだ」

 そう言いながら、彼はボクの体をつねってきた。

「痛っ!」

「君の体はまだ若いから引きしまってるね」

 彼は笑いながらボクの体をつねって遊んでいた。ボクはさっきの店で鏡に映った自分の姿を思い出しながら、「もうボクも若くないんだけどな」と心の中で思っていた。

 彼もバックとか過激なことはしたくないというので、ボクらは抱き合ったまま、ベッドの上でずっと会話をしていた。ちょうどボクも行ったことのある福岡県内で開催されている展覧会に、彼も数日前に行ったということがわかり、その展覧会の感想をお互いに述べ合っていた。その間も次々と年配の男性たちが、ボクらが寝ている姿を見つけて、体を触って来ようとしたけど、ボクは頭を振って受け入れないようにしていた。

<つづく>