職場でゲイとして生きること<6>

 ボクは何度も近づこうとしてくる彼女に対して、慌てて両手を上げて彼女にストップするようにジェスチャーで示していた。彼女は「この人って変ね」という感じで、ボクの顔を不思議そうに見ていた。彼女にも生活がかかっているのだろう、何度もボクの体を触ろうとしていたけど、ボクは身を引いてかわしていた。ボクは目の前の女性に対して、悪い気がしてきた。

「ごめんね……貧乏くじをひかしてしまって」

 きっとボクがノンケだったら、同僚たちと同じように彼女を抱きしめただろう。彼女にとって望んでいないだろうけど、これは仕事で、客を取らないと稼ぎが出ないだろう。路地裏の側溝を大きなネズミが鳴き声を上げて走り抜けていった。ボクは頭を下げて、「ごめんなさい」と彼女に伝えて足早にその場を後にした。

 少し距離を取ってから後ろを振り向くと、ぽつんと残された彼女はまだボクの方を不思議そうに見ていた。ボクは同僚たちをその場に放置して帰ることにした。どうせ完全に酔っ払っているし、ボクがいなくなった所で誰も覚えていないだろうと思っていた。みんないい歳をした大人だし、何かひどい目にあっても、それは自己責任だろうと思うことにした。

 近くの駅から電車に乗って窓の外を眺めていると、路地裏に立っている彼女らの姿が頭に浮かんだ。そして彼女らの立っている姿が有料ハッテン場の廊下に立っているボクの姿をかぶさって見えた。彼女たちは生きて行く収入を得るために体を売っている。ボクは性的な欲求を満たすために自分の体を売ったり、人の体を買ったりしている。ボクのしていることは彼女らと大して違わないだろうと思った。路地裏で抱き合ったりしている同僚たちに文句を言える立場でもないことは分かったいた。

 ボクの中でずっと気づかないようにしていた罪悪感がふつふつと沸き起こってきた。
 
<つづく>