職場でゲイとして生きること<11>

「神原って歩く時の手の振り方とかなんとなくホモぽいって」

 酔っ払っているためか前回と違ってしつこかった。ボクは自分の歩いている姿を頭の中に思い浮かべたけど、いまいち分からかった。

「えぇ……本当ですか?」

 ボクは笑いながらごまかしまぎれにジョッキを持ってビールを流し込んだ。

「そうやってジョッキを持つ時の仕草もホモぽい」

 それは完全な言い掛かりだった。でもボクが弄られるのを見ていて他のメンバーも楽しくなってきたようだった。

「言われてみれば神原ってホモぽいよね」

「同期の村上とデキてるんじゃない?」

「お前ら同期同士で肉体関係持ってるだろ?」

「お前ら二人ともキャバクラに行かないのはデキてるからか?」

 まさかこんな展開になるなんて。とにかく黙っていてはいけない。  

「いや……ホモって存在は否定しないけど、面と向かって言い寄られたら困るぐらいの存在ですよ」

 この言葉はボクがノンケの振りをするのに、よく使う常套文句だった。

「じぁ……お前って彼女いるの?」

 どうしよう……そもそも女性に興味を持ってないからいるわけがない。でも何かを言わなくちゃいけなかった。

「彼女……いますよ」

 完全に嘘だった。ボクは追い詰められ気味だったので窮余の策としてそう言った。ボクの言葉を聞いて話を聞いていた他のメンバーも興奮していた。

「どうやって出会ったの?」

「付き合ってどれくらい?」

「何歳ぐらい?」

 みんなが興味津々な感じで次々に質問してきた。

「そんなことどうでもいいでしょ!」

 ボクは笑いながら黙秘権を貫こうとした。

「怪しいな……」

「彼女いないだろ?」

「いるのは彼女じゃなくて彼氏だろ?」

 上司だけでなく、他のメンバーも疑惑の目を向け始めた。まずい……嘘がバレる。そう思ったボクは 黙秘権を早々に捨てることにした。

「大学時代に出会った人ですよ!」

 また嘘をついてしまった。三十歳を過ぎた頃に気がついたのだけれど、そもそもボクは性格的におっとりしていて、弄られキャラになりやすい性格のようだった。

<つづく>