「神原って歩く時の手の振り方とかなんとなくホモぽいって」
酔っ払っているためか前回と違ってしつこかった。ボクは自分の歩いている姿を頭の中に思い浮かべたけど、いまいち分からかった。
「えぇ……本当ですか?」
ボクは笑いながらごまかしまぎれにジョッキを持ってビールを流し込んだ。
「そうやってジョッキを持つ時の仕草もホモぽい」
それは完全な言い掛かりだった。でもボクが弄られるのを見ていて他のメンバーも楽しくなってきたようだった。
「言われてみれば神原ってホモぽいよね」
「同期の村上とデキてるんじゃない?」
「お前ら同期同士で肉体関係持ってるだろ?」
「お前ら二人ともキャバクラに行かないのはデキてるからか?」
まさかこんな展開になるなんて。とにかく黙っていてはいけない。
「いや……ホモって存在は否定しないけど、面と向かって言い寄られたら困るぐらいの存在ですよ」
この言葉はボクがノンケの振りをするのに、よく使う常套文句だった。
「じぁ……お前って彼女いるの?」
どうしよう……そもそも女性に興味を持ってないからいるわけがない。でも何かを言わなくちゃいけなかった。
「彼女……いますよ」
完全に嘘だった。ボクは追い詰められ気味だったので窮余の策としてそう言った。ボクの言葉を聞いて話を聞いていた他のメンバーも興奮していた。
「どうやって出会ったの?」
「付き合ってどれくらい?」
「何歳ぐらい?」
みんなが興味津々な感じで次々に質問してきた。
「そんなことどうでもいいでしょ!」
ボクは笑いながら黙秘権を貫こうとした。
「怪しいな……」
「彼女いないだろ?」
「いるのは彼女じゃなくて彼氏だろ?」
上司だけでなく、他のメンバーも疑惑の目を向け始めた。まずい……嘘がバレる。そう思ったボクは 黙秘権を早々に捨てることにした。
「大学時代に出会った人ですよ!」
また嘘をついてしまった。三十歳を過ぎた頃に気がついたのだけれど、そもそもボクは性格的におっとりしていて、弄られキャラになりやすい性格のようだった。
<つづく>