職場でゲイとして生きること<12>

 こういった時、弄られキャラというのは大変だ。弄られキャラは、どこの会社や部署に最低でも一人はいると思う。まさにボクがその一人だった。同じ同期でも村上君は性格が神経質でキツイから誰も弄ろうとはしない。恐らく弄って遊ぼうものなら、上司であろうと本気で激怒されて謝罪せざるをえないだろう。「同期の村上とデキてるんじゃない?」とか言いつつも、きちんと村上君には聞こえない声量でヒソヒソと話していた。ボクは遠くの方でマイペースに飲んでいる村上君を羨ましく見た。

 それにしても嘘を隠すために嘘を重ねるというのは、こういうことを言うのだろう。ただでさえゲイであることを隠して嘘をついているのに、成り行きとはいえ彼女までいると嘘をついたのだ。今更になって引き返すことなんかできなかった。

「大学時代にどうやって出会ったの?」

「一緒のサークルだったんですよ」

 ボクは大学時代に身近にいた女性を何人か思い浮かべて、特定の誰かを想定して話ことに決めた。特定の誰かにするのなら、大学時代に一番仲が良かった片原さんに決まっている。彼女とは社会人になってもメールのやり取りを続けていたし、趣味から考え方から癖から大体のことを熟知していた。

 ごめんね……勝手に付き合ってることにしてしまって。

 本人が目の前にいないから、迷惑をかけるわけではないけど、それでも後ろめたかった。

「じゃあ……彼女と結婚とかしないの?」

「お互いに仕事をしてるんで、まだ考えてないです」

「じゃあ……彼女とセックスとかしないの?」

「はぁ?? まぁ……セックスしますよ」

「彼女って何の仕事してるの?」

「●●って会社で働いてるんですよ」

 特定の女性を想定してからは、よどみなく受け答えができるようになった。その場の雰囲気からボクのホモ疑惑が徐々に薄れていくかのように思えた。これなら乗り切れるかもしれない。そう思った時に、ニヤつきながらホモ疑惑を生み出す原因を作った上司が言った。

「そうか……ごめん……俺が間違ってた。神原って両刀使いだったのか……悪いことを言ってしまった」

 この上司……一発どついたろうか?

 ボクをホモと疑っている上司はなおもしつこかった。あくまでボクが男が好きであるという疑惑を捨ててくれなかった。まぁ……ボクは本当にゲイで、それだけ上司が鋭い洞察力を持っているということだけど、ボクにとっては迷惑千万だった。

<つづく>