職場でゲイとして生きること<15>

 システムエンジニアになろうと思ったきっかけは不純だったけど、仕事をしていて人間関係を築くのが面白くてしょうがなかった。

「神原ってホモだからね」
「違いますよ! 女しか興味がないですよ」

 ボクは毎日のように、会社で不毛な戦いを続けていた。でも職場の同僚と一緒に仕事をしたり話したりするのが楽しくてしょうがなかった。

 そんなある日、先輩社員とA会社という客先に出かける機会があった。ボクの会社で開発しているソフトも既に導入されている会社で、新規機能の説明と、客先の担当者にボクの紹介も兼ねての訪問だった。先輩社員は客先の担当者と親しく談話をしていて、ボクは黙って二人の会話を聞いていた。どうせ初めての訪問だし、黙って笑顔で二人の話を聞いていればいいよね……そう思って気楽に構えていた。

「あっ……そうだ。うちの会社に入社してきた神原です」

 ボクの紹介を忘れてしまったかと思っていると、急に挨拶をするように促された。

「神原と申します」
「◯◯です。宜しくお願いします」

 ボクは緊張しながら名刺を交換していた。すると先輩社員が唐突に恐ろしいことを言い出した。

「ちなみにこいつホモなんですよ!」
「?!△?!◯>!!(言葉にならない状態)」

 この先輩……突然に何を言い出したんだ。ボクは驚いて先輩の顔を見た。先輩はわざと真剣そうに客先の担当者に説明していた。

「ホモなんで狙われないように気おつけてくださいね」
「へぇ〜〜それはそれは気おつけないといけませんね」

 客先の担当者も慌てるボクを見て面白かったのか、先輩と同じような目をして「弄りがいのある獲物を見つけた」という感じで笑っていた。とんでもない紹介をされたものだ。笑ってはいるけど紹介された担当者も、きっとドン引きしているに違いないと思っていた。名刺の裏側に色々とメモをする人がいるけど、まさか「ホモ」とか書かれていないだろうなと心配していた。

 そして数ヶ月後、ホモ疑惑を生み出した上司と面談をしている時だった。

「少し前にA会社に行ったろ? あの会社の担当者がお前に会いたがってたぞ!」

 上司が嬉しそうに言ってきた。

「えっ……特に何もせずに座ってただけですけど?」
「電話で話したけど、『もうホモの方って来ないんですか?』って言ったよ」
「?!△?!◯>!!」

<つづく>