職場でゲイとして生きること<16>

 ふと考えてみると、同僚からの呼び名が「両刀使い」からいつの間にか「ホモ」に逆戻りしていた。でもそれは置いといて、その会社の担当者も人をホモ呼ばわりするなよ! ちゃんと人の名前を覚えろよ! ボクの会社の上司にホモの話とかするなよと内心で頭を抱えていた。

「それで今度からA会社の保守はお前に任せるからね」

 上司は嬉しそうにそう言って、新しい仕事をボクに押し付けてきた。

「あの……ホモ扱いとか困るんですけど。その会社に顔も出したくないんですけど」 
「何言ってんの! 相手に顔を覚えてもらって気に入ってもらえればいいんだって」
「う〜ん。そうなんですかね……」
「そうそう気にするなって!」

 あの会社は大丈夫なんだろうか……それに面談中にこんな会話をするボクの会社は大丈夫なんだろうか……ボクは上司から話を聴きながら色々と心配になってきた。この会話があってからというもの、上司の中では客先の受けがいいホモキャラクターという印象が定着してしまって、やたらと客先に出されることが多くなってきた。

「こいつホモなんですよ!」
「違いますって! ホモじゃないですって!」

 客先に行って少し雰囲気が和んでくると、一緒に行っている先輩が、いきなりボクをこう言って紹介するのだ。ボクは紹介されながら、赤面して慌てて否定するのだけれど、どうやらその姿が見ている方は面白いようだ。それとホモと紹介されるインパクトが強いようで、やたらと客先に顔を覚えられるようだ。

「神原さんってホモなんですよね? 近いうちに一緒にゲイバーに行きませんか?」
「やっぱりホモだから新宿二丁目とか行かれるんですか? 今度案内してもらえませんか?」

 そのうち客先で仕事をしていると慣れてきた人から妙な誘いを受けるようになったきた。ボクはホモ疑惑を否定しつつも丁重にお断りしていた。社会人生活は楽しかったけれど、ボクの社会人生活は入社一年目にして徐々に迷走入りしていた。

<つづく>