職場でゲイとして生きること<17>

「ねぇねぇ……彼女とは最近会ってるの?」

 ボクの一番めんどくさかった対応だ。ホモかと問い詰めてくれた方が、何も考えないで否定すればいいから楽だった。ボクは頭をフル稼働させて前後の辻褄が合うように話を合わせていた。

「えぇ……会ってますよ」

 そもそも会ってるも何も彼女なんていない。

「最近、彼女とは寝てるの?」
「えぇ……寝てますよ」

 そもそも寝ようも何も彼女なんていない。でも寝ていないというのも不自然な回答になってしまうので寝てることにした。同僚は驚きながら質問を続けてきた。

「家で寝てるの? ホテルで寝てるの?」
「まぁ……ボクの家で寝てますけど」
「ディズニーランドとかデートに行かないの?」
「まぁ……デートはしますけど。人が多い所は嫌いだから普通に食事をしてから、おしゃべりしてますけど」

 あぁ……本当にめんどくさい。ボクは猛烈な徒労感に襲われていた。他の人からも似たような質問が来るので、一度した回答は全て記憶しておかなければならない。別の人に違う回答をすると矛盾が生じて嘘がバレてしまうからだ。ボクは頭の中で、空想の彼女とのデートのシナリオを作りあげながら慎重に答えていた。そして嘘をつく罪悪感も感じる余裕もなく、ひたすら嘘をつき続けていた。

 なんて虚しいことをしているんだろう。いっそのことカミングアウトした方が楽になれるかもしれないという誘惑が出てきた。ゲイではないと否定し続けるのがめんどくさくなってきた。でもここでカミングアウトをすれば、ボクの大学時代からゲイであることを隠して生きてきた苦労が水泡に帰してしまう。

 今でこそLGBTの人が働きやすい職場にしようといった動きがあるけど、十年前の職場では、そんなこと話題にすらなっていなかった。でも、ボクの会社には数百人もの社員がいる。つまりボク以外にも、何人かのゲイの社員が必ずいると思っていた。ボクのように隠れてひっそりと生きている(隠れていたのに、いつのまにか舞台の上に立たされてるけど)ゲイの人がきっといるだろうと思っていた。その人たちは、ホモ扱いされて弄られているボクを見てどう思っているのだろうとか考えていた。

<つづく>