もしボクがゲイだと認めてしまったらどうなるのだろう。目の前で笑っている同僚たちも凍りつくだろう。急に態度がヨソヨソしくなったりするのかもしれない。それに考えすぎかもしれないけど、ゲイの上司なんて部下からすれば嫌な気持ちになるかもしれない。よく分からないけど、ある時点から出世することが難しくなるのかもしれない。色々なことが考えられてボクはやっぱりゲイだと認めることができなかった。
そして運命の日がやってくる。
「そろそろ前に言ってたゲイバーに一緒に行こうぜ」
ボクのホモ疑惑を生み出すきっかけを作った上司が言い出した。ボクの会社は飲み会が多くて、相変わらず飲み会になると、例の上司が騒いでいた。飲み会になる度に、ボク半同席する同僚たちからホモ扱いされて、否定し続けていた。
「あぁ〜いいですね」
他の同僚もゲイバーに行ったことがないようで、みんな興味深々だった。ちなみにボクは社会人になっても、まだゲイバーというものに行ったことがなかった。
「……」
ボクは存在感を消して黙っていた。話を振られたら、どう言い訳をして断ろうと思っていた。
「神原も行こうぜ?」
「いや……結構です」
ボクは苦笑いをしながら答えた。
「なんで? 神原も行こうぜ?
「お前の仲間が沢山いるぞ」
「前にゲイバー行きたいって言ってただろ?」
同僚からの目線が疑わしそうにボクに注がれていた。ボクは言い訳を考えていたけど、どうしてもうまい言い訳が思いつかなかった。正直な気持ちを言えば、ゲイバーに行くと自分の本性がバレそうな予感がしていたからだけど、それを言うわけにはいかなかった。焦って言い訳を考えれば考えるほど、空回りして何も思いつかなかった。
「いや〜行かないですよ」
ボクは作り笑いを浮かべて、ひたすら同じ答えを繰り返した。
<つづく>