その場の雰囲気が気まずくなってきた。ボクはいつものように明るく受け流すことができなかった。その場の雰囲気がよそよそしくなったのを感じて、ボクはせっかくゲイであることを頑張って隠してきたけど、もうバレたと思っていた。
「なんでゲイバーに行かないの?」
ボクはどうにでもとヤケクソになっていた。
「いや〜〜ボクもホモなんでゲイバーに行くと知り合いが沢山いるんですよ。だから職場の同僚と一緒に行くと困るじゃないですか?」
無茶苦茶な発言だった。ボクは開きなってさらっとカミングアウトをしていた。内心では「ついに言ってしまった」とドキドキしていた。
「おぉ! やっぱりな。神原ってホモなんだ」
「こいつ! ついにホモって認めたよ」
同僚たちは、次々に嬉しそうな顔をしてボクを弄って遊び始めた。
「お前はやっぱり男が好きだったのか?」
「はいはい。そうです」
もう本当にどうにでもなれという感じだった。さっきまで話していたゲイバーの話は消え去っていた。
「いや〜前から怪しいとは思ってたけど、やっぱりホモだったのか」
「職場にカッコいいとか思う人はいるの?」
「Aさんですかね? カッコいいですよ」
本当はAさんなんかどうでもよかったけど、たまたま近くの席に座っていて目についたので名前を挙げて巻き込んだ。Aさんは慌てて言った。
「マジで? 俺に手を出すなよ」
「いや……Aさんマジで好みのタイプです」
「おい……神原ってAさんが好きみたいよ」
飲み会の席は、異常な盛り上がりを見せていた。ボクの平穏な社会人生活はこれで終わったと思っていた。
<つづく>