深夜のカミングアウト<1>

 ホモを装った人。

 それがボクの社会人一年目でついたキャラクターだった。そのキャラクターはどうあがいても消えなくなっていて、ボクは諦めに似た心境で過ごしていた。ただ正確に言うと「本当にホモなのだけれどホモを装った人」となる。なんだか複雑になって分かりづらい。ただ入社一年目の時点では、ボクの正体を知っているのはボクだけだった。それから暫くして、もう一人だけボクの正体を知ることになる人物が社内にはいる。

 高校時代と違って、誰もボクが本当にゲイであると思っておらず、冗談だと思っていた。だからボクに対して気持ち悪いとか死ねとか言ってくる人はいなかった。そういう意味では高校時代と同じようにホモキャラクターを演じていても、そこまで精神的な負担にはならなかった。いつかホモキャラクターも飽きられるかもという気はしていたけど、そこは社会人なので仕事さえ真面目にしていれば、会社内で生きづらくなることはないだろうと思っていた。その点は高校との環境の違いもあるとは思うけど、精神的に成長したと思う。

 そして社会人二年目のなると、新入社員が入って来た。ボクの部署には男性社員二名と女性社員が一名ほど配属されて来た。

「神原ってホモだから新人の男性社員は気おつけろよ!」

 入社して数日も経たないうちに、T先輩が新人にボクのことを紹介していた。

「ええ!(内心:えっ……この先輩ってマジでホモなの?)」

 新人がドン引きしてボクの方をチラチラと見ている。でもボクも新人教育担当なので負けていない。

「いや……ボクって年下には興味がないから、むしろ年上のT先輩の方が気おつけた方がいいですよ」

 ボクはじっと甘く切ない目でT先輩を見つめて言った。

「おいおい! マジかよ」

 見つめられたT先輩は焦り気味で苦笑いしていた。

「冗談ですよ」

 ボクは焦ってるT先輩が可哀想になったので切り上げた。こんな演技は高校時代に何度もやっていたので朝飯前だった。

「ははははっ(内心:よかった冗談なのか)」

 ボクは後輩の笑っている顔を見て冗談と受け取ってもらえたようで安心した。それにしても後輩が入社して数日も経たないうちにホモだと公表されていた。これでは油断もできない。もはや先輩の顔が丸つぶれである。

<つづく>