ノンケに生まれ変わりたい<9>

 ある日、ボクは片原さんといつものように大学近くのファミリーレストランで深夜遅くまで雑談をして過ごしていた。客の大半は同じ大学の生徒ばかりだった。いつも通りにボーイズラブトークなど、とりとめのない話ばかりしていた時だった。

「ねぇ……そういえば神原君って杉本って人を知っている?」

 急に片原さんが質問してきた。

「杉本……知らないけど? うちのゼミにはいないと思うよ」

 同じ大学の知り合いの仲間の中に、そんな名字の名前の人はいなかった。

「大学じゃなくて地元の人なんだけど?」
「地元の人? ○○県の人ってこと?」
「そう。○○県の人だよ」
「その人がどうしたの?」
「神原君と同じ年で、同じ出身地だから知り合いかと思ってね」
「杉本の名前は何て言うの?」

 ボクは嫌な予感がしていた。恐る恐る片原さんに訊いてみた。

「確かね……杉本清(仮名)だったと思うよ」

 その名前を聞いた時に、瞬間的に顔が思い浮かんだ。その杉本って生徒は中学から高校まで同じ学校で、それに何度か同じクラスにもなったことのある生徒だった。ボクは焦っていたけど、顔に出さないように注意して話を続けた。

「その杉本って人がどうしたの?」
「バイト先が同じで時々顔を合わすの。私たちとは違う大学なんだけど、神原君と出身地が同じだから、もしかしたら知り合いかなって思ってね」

 確かに知り合いだった……しかもボクがゲイであることもよく知っている生徒だった。ボクの出身地から京都の大学に来ている生徒なんて山ほどいるだろうに、ボクの友達である片原さんと、同じバイト先で働いているなんて、なんという偶然だろう。

「さぁ……杉本なんて知り合いはいないよ」

 ボクは嘘をついた。

<つづく>