そもそも村上君のどういうところが好きになったかというと、ボクが同性を好きになるパターンとして、自分に持っていないもの(性格や生き方など内面的なもの)を持っている人に対する憧れから始まって、徐々に恋愛感情は高まっていくという点があるけど、村上君に関しては、そんなに当てはまる点がなかった。それに性格的には全くの正反対だった。彼の性格はキツイくて、相手にズケズケと言っ直属の上司にすら恐れられるスタイルはボクには到底無理で憧れの対象にはならなかった。
彼に惹かれた点は別だった。
少し話がそれるけど、どこの組織にも使い方によっては有能なのに、性格的に難しい人たちがいると思う。あの人に相談して話しを進めなくてはいけないけど、性格的にキツイとか根暗で話しかけにくいタイプの人たちだ。ボクは転職した後、組織の中で浮いた人たちとの間に入って人間関係を調整する役が多くなってきた。
「あいつと話したくないから、悪いけど神原から説明しといて」
そんな感じで、はるかに年上の上司からも人間調整を依頼されることが頻繁にある。
「あの人とは性格的に合わないし顔も見たくない」
「あの人……早く辞めればいいのに」
「神原くんってよくあの人と会話するよね?」
そんな感じで職場の仲間たちから不思議がられることが多い。ボクは逆にそう言ってくる人たちが不思議でたまらなかった。
根本的には、ボク自身の性格がおっとりしているから、彼らと付き合えるという理由があるけど、本当の理由は、ボクは職場で浮いている人たちが大好きだからだ。
ボクは同性愛者である上に、趣味や性格も少し変わっていて、表面上は職場の仲間ともうまくやっているけど、内心ではいつも違和感を感じていた。無理に合わせようとして疲れていた。そんな中、職場で浮いている人たちを見ていると自分と似ているようで親近感が湧くのだ。だから職場で浮いている人たちを相手に気軽に話しかけてしまう。中には気むづかしい人もいてギャーギャーと激怒してくる人もいるけど、ボクにはそんな人間臭い一面が、また愛おしくて激怒されたことも数時間後にはスルーして、何事もなかったかのように気軽に話しかけてしまう。魚心あれば水心のようなもので、こちらからあなたのことが好きですというオーラを出していると、自然と相手も受け入れてくれることが多い。
これはマゾの部類に入るのかもしれない。
でもボクは彼らと話している時の方が、本当の自分が出せて気楽だった。そんな状況を職場の仲間は見ていて、「めんどくさい奴は神原を通して話をした方が早い」という、この上なくどうでもよい人間関係の調整役という雑用係に任命されてしまった。
<つづく>