同性愛者の住宅事情<3>

 ここまで住宅事情について書いてきたけど、小学生時代のある思い出について書きたい。

 ボクの実家は住宅街の中にある。その二軒隣の平屋の一戸建てに、一人暮らしの男性が住んでいた。その男性の存在を知ったのは、ボクが小学生の三年くらいだった。

 近所の友達と公園で遊び終わって、次はボクの家で遊ぶことになって一緒に歩いている時だった。家の近くでステテコ姿の五十代後半くらいのおじさんから声をかけられた。そしておじさんの家に入るよう誘われた。ボクは警戒していたけれど、友達は過去にもおじさんと話したことがあるようで、「お菓子がもらえるよ」と言われて、友達に誘われるがままおじさんの家に入った。

 庭にはほとんど植木もなくこじんまりとしていた。玄関から居間に通されて待っていると、そのおじさんはお盆にお菓子を載せてもってきて、ボクらに食べるように勧めてきた。ボクはお菓子を食べながら、室内を見渡していた。その室内にはほとんど家具もなかった。

 なんだか静かで、寂しそうな家だな。

 ボクは子供ながらに、そういった印象を抱いていた。夕方になり家に帰って、その出来事を母親に話すと酷く驚いて言った。

「あのおじさんが声をかけるなんて珍しい」
「そうなの?」
「町内では変人で有名だから」
「変人?」
「あの人……独身で一人暮らしなのよ」
「ふ〜ん」
「男性で独身って珍しいのよ」
「そうなの?」
「あの年代の男性って結婚するのが当たり前だったから……それに独身で一戸建てに住んでる人って滅多にいないわよ」

 子供の頃は男性で独身でいるのが珍しいものなのか、ほとんど理解できなかった。ただ漠然と男性が独身でいると、周囲からは変人として扱いを受けることになる可能性があるということだけは分かった。近所の人たちを観察していると、そのおじさんとの接触を避けているようで、浮いた存在であることは子供心にもわかった。

<つづく>