同性愛者の住宅事情<5>

 おじさんが亡くなった後、他県に住んでいる妹が後始末のため訪れたことを知った。おじさんは自宅にいる時に体調が悪くなって、自分で救急車を呼んで病院に運ばれた後、しばらくして亡くなったらしい。ちょうどボクの母親が地区の班長をしていたから詳しく知ることができた。

 あの家は空き家として売りに出されていた。庭の雑草が生えてうっそうとしていたけど、妹の家族が時々だけど顔を出して掃除していると聞かされた。古い家だし誰が買うんだろうと思っていると、二年後に若い新婚夫婦が引っ越してきた。おじさんの住んでいた平屋は潰されてしまって、二階建ての新築が建てられた。その夫婦に数年後には子供が生まれていて、家の前で子供が遊んでいるのを何度か見かけた。おじさんと違って、自治会の活動にも真面目に参加しているようで、近所に溶け込んでいた。

 もう町内の誰一人として、あのおじさんが独りで家に住んでいたことなんて気にしていないだろう。

 ボクは夕暮れ時、家の中から漏れていた野球中継の音がする、あの寂しそうな家を思い出す。ボクはどうしてもおじさんの人生と、自分の人生と重ねて考えてしまう。あのおじさんがどうして結婚しなかったのかもは知らない。ゲイなのかも分からない。そんなことはどうでもいい。

 男性で独身でいる人は滅多にいない……

 男性で独身で一戸建てに住んでいる変人……

 母親の言葉や近所のおじさんに対する視線を思い出してしまう。

 時代は変わっている。独身男性も増えてきている。しかし職場に独身男性はいるけど、同僚からの彼らに対する視線は冷たい。結婚して家庭を築くのは当たり前という考えの人は沢山いる。でも当たり前のことが、ボクのような同性愛者には難しい。

 ボクの中で一戸建てに男性が独りで住んでいるという形態は、おじさんの姿を否が応でも連想してしまう。

<つづく>