ボクは住宅街の裏路地に体を隠していた。その目の前の道路を紺色の軽自動車が勢いよく通り過ぎていった。車を運転している人の顔が見たくて目を凝らしていたのだけれど、あっという間で見えなかった。車が完全に去ったのを見届けて、裏路地から道路沿いの歩道に戻って、待ち合わせの場所までトボトボと歩き出した。歩いて五分もすると待ち合わせの踏切に着いた。車のエンジン音が聞こえて、踏切横の駐車スペースには、先ほど目の前を通り過ぎた紺色の軽自動車が停まっていた。引き返したい気持ちに駆られたけど、相手に対する好奇心が勝っていた。
いったい誰なんだろう……
ボクは恐る恐る車に近づいて、窓ガラス越しに運転席に乗っている人の顔を見た。運転席の男性もボクの顔を見ていた。お互いに目が合った。相手が誰かと分かるまで時間はかからなかった。
◇
これは社会人になる直前の出来事だ。
まだ少し肌寒い風が吹く3月のある日のことだ。ボクは大学の卒業が決まって就職先も決まって実家に帰省していた。
田舎の実家に帰省してもやることはなかった。大学生なので車も持っていらず、親の車を借りて出かけるのがせいぜいだ。でも田舎だから特に行きたい場所もない。退屈を紛らわすために、本を読んでいたけど、それも飽きてしまった。ボクは退屈しのぎにパソコンの前に座ってインターネットで検索していた。
「○○県 同性愛 掲示板」
「○○県 ゲイ 掲示板」
「○○地方 ゲイ 掲示板」
どんなキーワードで検索してもヒットする数は少なかった。どの掲示板サイトを見ていても、関西とは違って書き込みの頻度も、極端に少なかった。
やっぱり田舎だとこんなもんだよな……
ボクは落胆しつつも、気を取り直してある掲示板に書き込みをすることにした。
<つづく>