同性愛者が存在する確率<4>

 車の窓ガラスを下ろして、ボクの顔を見ながら運転席の男性が言った。

「見覚えがある……」
「ボクも見覚えがある……」
「もしかして神原だよね!」
「金子君だよね!」

 運転席には懐かしい顔があった。確か金子君とは小学生時代に五年生と六年生の二年間ほど同じクラスになったはずだ。

「寒いでしょ? 早く車に乗って」

 ボクが寒そうに立っている姿を見てそう言った。そして助手席の荷物をどけて、ボクに車に乗るように促した。ボクは少し躊躇しながらも促されるままに車に乗った。

「どこかで話そうか……どこがいい?」

 お互いに積もる話はあるけれど、とりあえずゆっくり話せる場所に行きたかったようだ。

「海沿いに○○喫茶があるよね。そこでどうかな?」

 ボクはこのまま車で話してもよかったけど、どこがいいかと聞かれたので近場の喫茶店に誘った。それになるべく知り合いが来ない店を選択した。

「分かった。○○喫茶ね」

 彼は車を運転し始めた。ボクは運転している彼の横顔をチラチラと見ていた。そして彼の小学生時代を思い出していた。小学生時代の彼は、なんとなく仕草や口調が女性ぽかったのを思い出していた。

 そうか……彼はゲイだったのか。

 ボクは彼がゲイだったと分かっても「なるほど」と納得していた。ただ大人になった彼の姿からは、そんな女々しさは消えていて、とても男らしい顔立ちになっていた。言葉遣いも普通になっていた。彼は隣の町内に住んでいて、歩いて十五分もかからない距離に住んでいた。確かお互いの家に遊びに行ったこともあるはずだ。彼の家の中の様子もなんとなく覚えていた。ボクらは特に仲が良い訳でも、悪い訳でもなかったはずだ。

「今、神原は何しているの?」
「三月で卒業するけど京都の○○大学に通ってる。そっちは?」
「俺はリハビリの専門学校に通ってる。俺も今年で卒業するんだ。神原は就職先決まった?」
「うん……東京の企業に決まった。そっちは?」
「俺は大阪の施設で働くことに決まった」

 ボクらは喫茶店に入って飲み物を注文するまで、本当に聞きたいことには触れないでいた。そして注文を終えたボクらは堰を切ったように周囲に聞こえないくらいの声でヒソヒソと話し始めた。

「もしかして神原ってあの掲示板に書き込むの初めてなの?」
「うん。それに実家に帰って、ああいった掲示板に書き込むこと自体初めてだよ」
「なるほどね。書き込みの文章を見ただけで新入りってわかったよ」
「そんなに……あの掲示板利用してるの?」
「うん。あの掲示板に書き込みしてる人って大体常連ばっかりだよ」

<つづく>