「そうなんだ……常連ばっかりなんだ」
書き込みの件数が少ない掲示板だから驚きはしなかった。同性愛者の出会い系の掲示板なんて、よくよく見ているとわかるけれど、同じ人たちが毎日書き込みしているなんて日常茶飯事だ。
「それにしても神原って、こっちの人だったんだ。一緒にいたけど全く気づかなかった」
「ボクがこっちに目覚めたのは中学時代になってからだからね。小学時代は普通にクラスの女子に恋してたよ」
「今も話してて、こっちぽい全く感じはしないよね」
「それは大学に入ってから知り合ったこっちの人からもよく言われるよ」
周囲に人目がある手前、隠して話しているけど、「こっち」というのは「ゲイ」と置き換えてしまって構わない。
「じゃあ……男も女もどっちもイケるんだ?」
「それが……中学時代に男を好きになってからは、一度も女に恋をしてない。というか……最近は、男にも恋愛感情を抱いてないよ」
ボクは説明しながらも何だか虚しくなってきた。
「俺は小学時代からこっちだったよ。クラスの男子で好きな子がいた」
「ボクも知ってる子?」
「神原は知ってるよ。O君が好きだった」
「O君か!」
「神原はO君と仲が良かったでしょ。毎日一緒に遊んでたし見てて羨ましかったよ」
ボクの父親が、O君の父親と同じ職場で、ボクはO君と仲が良かったのだ。小学時代は同性を好きになるということ自体に理解がなかったし、まさか自分が嫉妬心を抱かれて見られているとは想像もできなかった。
そうか……O君が好きだったのか。
実はO君には高校時代にキツイ言葉を浴びせられた記憶がある。
「ホモ! キモい!」
「死ね! こっち来るな!」
小学校の卒業以来、久しぶりに再会した際、そう言われたのだ。ちなみに言われた場所は、さっき金子君が待ち合わせ場所に指定したあの踏切だった。ボクは苦い思い出が沸き起こってきたけど、目の前の金子君には黙っていた。小学時代に好きだった男性とはいえ、O君からゲイであることを否定する言葉を浴びせられたなんて話を聞かせても気分が悪くなるだけだろう。
「神原は、まだO君を遊んだりしてないの?」
目の前の金子君は興味津々に聞いてきた。
「まさか……小学時代の友達と遊んでないでしょ」
遊べる訳がない……でも理由を説明する訳にもいかなかった。
「そうなんだ。地元でO君を全く見かけないけど何してるんだろ」
O君のことを思い出しているのか、金子君は無邪気に笑っていた。
<つづく>