同性愛者が存在する確率<7>

 ボクは驚きながら言った。こんな話を聞くと、よくクラス内に二、三人は同性愛者がいるという説は間違っていないように思えた。

「他にもゲイぽい奴はいたと思うよ。例えば▲▲君とか。俺の予想だとあいつって神原のこと好きだったと思うよ」

 実は▲▲君がゲイかもしれないという心当たりはあった。修学旅行の時、旅館で同室になったんだけど、なぜか翌朝、起きて枕元を見ると▲▲君の寝顔が側にあった。驚いて周囲を見渡したけど、みんな自分の布団に入って寝ていた。いつのまにかボクの布団に入って来て添い寝していたのだ。ボクはそのまま布団から出て何もなかったことにして知らない振りをしていた。まだ同性愛に目覚めていない頃で、何で彼がそんなことをしてきたのか全く理解できなかったからだ。

「▲▲君には、少し心当たりがあるかもしれない……」

 心当たりでしかないので、金子君には修学旅行の話はしなかった。

「▲▲君とは同じ中学だったけど、こっちじゃないかって噂を聞いたことがあるよ」

 小学時代の思い出話は尽きなかった。あっという間に二時間近く時間が経っていた。

「そろそろ店を出ない?」

 ボクの親が仕事から戻るまでには、まだ時間があったけど念には念を入れて早めに帰りたかった。

「家まで送るよ」
「いや……いいよ」 

 せっかく好意だけど、ボクは断った。ボクの言葉の意図を汲んでくれたのか、それ以上は言ってこなかった。彼の家まで車で送ってもらって、そこからは自分の家まで歩いて帰ることにした。ボクの親に彼と一緒にいるところを見られるわけにはいかなかった。

 ボクは彼の車に同乗させてもらって来た道を戻っていた。車が彼の家に着きそうになった時だった。チラチラとボクの方を見ながら、何か言いたそうな雰囲気を感じた。ボクは黙っていると、少し言いにくそうに彼は話し始めた。

「実はね……夏ぐらいに結婚するんだ」
「結婚するの? 女性とだよね?」
「うん」

 少し驚きはしたけど、別に女性と同性愛者が結婚してるの珍しいとも思わなかった。既に何人ものゲイの既婚者と会ったことがあるからだ。

「大阪で働くのも彼女の実家が大阪だからなんだ」
「そうか……それで大阪の施設で働くんだ」
「本当はああいった掲示板を見ること自体も止めないといけないんだけどね」

 なんて声をかけたらいいのか分からなかった。小学時代からゲイであることを自覚している彼が女性と結婚しても、なかなか難しいだろうと思った。

「大変だろうけど頑張ってね」

 ボクが彼に伝えられる言葉は、それだけだった。
 
「うん……」

 車が彼の家の前についた。車を停車する前から、彼は急に寡黙になっていた。ボクはそれとなく彼の横顔を見て嫌な予感がしていた。

「あのさ……もしよかったら俺の家に寄らない? 誰も家にいないんだ」

 ボクは彼の言葉が何を意味するのか察した。

「それって、ヤルこと?」

<つづく>