同性愛者が存在する確率<8>

「表現が直球だね……」
「まどろっこしいのは嫌いだから。ボクは小学時代の同級生とヤるのは嫌だよ」
 
 でも心の中では、彼とヤれないわけではないと思っていた。もし有料ハッテン場で同級生と知らないまま彼と出会ったら、恐らく肉体関係を持っていただろう。でも今は色々と事情が違っていた。

「俺は神原とならいいけど」

 彼がジロジロとボクの体を見ているのが分かった。

「なんだか生々しいな……」

 今日の出会いは「会って話すだけでいい」と前提があったはずだった。

「駄目かな?」
「ごめん……気分が乗らないんだ」

 ボクは頭を下げて断った。

「そっか……仕方ないね」
「結婚するんでしょ? 彼女を大切にしないと」

 彼にとっては、この言葉は厳しいものになるのかもしれない。恐らく彼と話した印象から、出会い系の掲示板に書き込んで誰かと会うことを止めるようには思えなかった。それは結婚して大阪に引っ越ししても変わらないだろう。田舎と違って、有料ハッテン場などの店もあって抜け出せなくなるだろう。

「うん。そうだね」
「じゃあ……また機会があったらね」

 そう答えながらボクは心の中で、彼と会って話す機会は二度とないだろうと思っていた。ボクは車から降りて彼に別れを告げて歩き出した。路地を曲がるときに振り返ると、彼はまだボクの方を見ていたので、手を振ってから別れを告げた。彼の方でも手を振り返してくれた。家に帰宅すると同時に彼からメールが来ていた。

今日はありがとう! それと今日のことは神原の親には黙っててくれる? 結婚するのに俺の親に話が伝わるとまずいから。

 親に言えるわけがじゃないか……ボクは心の中でつぶやいた。ボクだって自分がゲイだって親にカミングアウトしてはないのだ。

ボクだって親にカミングアウトしてないし、今日の出来事は二人だけの秘密だよ。
確かにそうだね。じゃあまたね。
うん。またね。

 彼にメールを返信してから、ボクは彼とのメールのやりとりした歴を全て削除した。

<つづく>